薬研くんの声が好きだ。
薬研くんの声を聴くと、今日も頑張ろうって、気分になれるから。
薬研くんの声が好きだ。
薬研くんの声を聴くと、あったかくて、ふわふわして、私はーーー
「熱?!」
「ああ、よほど無理をしていたらしいね。今部屋で寝かせてきたよ」
遠征から帰還後、燭台切に大将が熱を出したと言われ、思わず声を荒げる。
俺達には無茶をするなと口が酸っぱくなるほど言っておいて、自分はそれか。
頭に手をやり大袈裟にため息をこぼす。
目の前の燭台切が苦笑いをしたのがうっすらと見えた。
くるりと踵を返すと、「やっと寝たばっかりだから起こさないでくれよ」と声がした。
分かっている。そんな当たり前のことは分かっているけれど、
それよりきっと俺の想像の方が正しいと思うから、俺はそのまま大将の寝室へと向かった。
「大将、薬研だ。入るぞ」
「!」
がばりと身を起こして、声の方を向く。
薬研くんがやっぱりか、とでも言いたげな顔をした。
「おかえりなさい薬研くん!怪我はないですか?他のみんなは…」
「こらこら、あんまでかい声出すな。燭台切に寝たフリしたんだろ」
「あっ…そうでした…すみません…」
ついいつもの調子でまくし立ててしまい反省していると、
薬研くんはひとつ、ため息をこぼして私の隣に座り込んだ。
「眠れないのか?」
「………眠くないですよ」
そういうと薬研くんは一寸顔を顰めて、私の額にデコピンをした。
額にじんわりと痛みが広がって、思わず抗議の声を上げようとした。けれど、
私の視界がくるりと反転して、何を言おうとしたかも忘れてしまった。
薬研くんに、押し倒されている。
まるで今から組討でもされるかのような体制に、思わず息を飲んだ。
頭のすぐ横に置かれている薬研くんの手が、畳を引っ掻くような音を立てる。
射抜くような鋭い視線と、目が合った。
「そんなに心配しなくても、みんな無事だ」
「は、はい……」
「第三部隊もすぐに帰ってくる。大将は何も心配しなくていい、寝てもいいんだ」
「………やげ、」
「だから、寝ろ」
どんどん顔が近づいてきて、思わずぎゅっと目を瞑る。
心臓がなんだかばくばく煩くて、爆発してしまいそうだった。
こつんと薬研くんの冷たい額が私の額に重なって、薬研くんが「ん、」と小さく声を漏らして、元の場所へと座り直した。
心臓がひどく痛んで、体がぶわっと熱くなった。
やっぱりまだ熱いな、と呟く声が、私を緩やかに侵蝕していく。
疼く手をそっとのばして、薬研くんの手をつかむ。
小さくて、冷たい手だった。
「どうしたんだ?大将」
「……あの、私が眠るまで……ここにいてくれますか?」
「………ああ、もちろんだ」
ぬるま湯みたいな心地の良い声に、そっと目を瞑る。
「起きたらまた、ぱーっとやろうや。な、大将」
私の頭を撫でながらそう微笑む薬研くん。
優しい声が脳内に響いて、私はまた体が熱くなったような気がした。
薬研くんの声が好きだ。
とても優しくて、穏やかな気持ちになれるから。
薬研くんの声が好きだ。
薬研くんの声を聴くと、薬研くんのことしか考えられなくなるから。
薬研くんの声がじわりじわりと私の中に入っていく。
全身がじくじくと蝕まれる感覚がして、思わず意識を失った。
ああ、もう毒が回ってしまった。
→
ALICE+