2月になると兼定が決まって罹る病気がある。

「オレぁ、チョコレートが大好きなんだよ」

それは、突然大好物がチョコレートになる病、だった。



毎年山のようなチョコをファンやら後輩やらに貰っているのを知っている私は、最初こそそれはよかったですねとでも言えたのだけど。剣道部の兼定はまあ普段から色々な差し入れをもらっている。実に羨ましいことだけど、どうやらその時に甘いものは苦手だなどとのたまっているらしい。いいご身分だ。人気者は差し入れにまでケチをつけれるのか。

「なあ、なまえ。なんか菓子作りがしたいんじゃないか?」
「べつに」

そんなことを自分から言い出すほど、甘いものに飢えているのか。そこまで思って、その矛盾に気付いた。チョコレートとは基本、甘いものだ。勿論ビターチョコの存在を知らなくての発言ではない。全員が全員、ビターチョコレートをくれるはずがない、ということだ。差し入れでさえ言わなくてはならないのだから、その事実が知れ渡っているはずがないのだ。つまり、奴がチョコレートが好きなはずがない。

しかしならなんで、あんな嘘をついているのか。

…女子の選別でもしてるのか。などという随分と兼定を酷い人間のように言ってみる。すぐに罪悪感と否定の気持ちでいっぱいになった。けど頭の悪い私には、それくらいしか思いつかない。他に何か思い当たることはあっただろうか。…何も思い浮かばない。

ふらふらと人の流れについていくと可愛らしいケーキ屋さんに辿り着いた。どうやらチョコレートフェアをやっているらしい。フリルとたくさんのハートで飾られた店内に、場違いだろうかと思いながら入ってみる。甘い甘い、チョコレートの香りが鼻腔をくすぐる。たまにはバレンタインに浸るのも悪くないかもしれない。私は一番お手頃価格のものを手にとって、そのままレジへと並ぶ。すごい人の数だ。これがみんな、恋をしているとでも言うのか。

「なまえ」
「?!?!! …か、兼定…………!」

店を出るなり、兼定に呼び止められる。店に入るところから見ていたらしい兼定は、私の持っているものを見るなりずいっと体を近づけてきた。

「お、おい、そりゃあ、まさか…」
「あ、いやこれは別に誰かにあげるとかじゃなくて…」
「オレへのチョコレートだなあ?!!」

それはもう、にんまりと。
兼定はおもちゃをもらった子供のように、嬉しそうに笑った。
………ずるい。そんな顔されたら、渡したくなっちゃうじゃない。もっと可愛くて、女の子みたいな包みの奮発したチョコを買えばよかった。無言でチョコを差し出しながらそう思っていると、兼定にお礼を言われて、思わず反発の言葉が出る。

「…っほ、他の子からいっぱい貰ってるんだから、いらないんじゃないの?」
「何言ってんだよ、お前からが一番欲しかったに決まってんだろ?」
「………何、言ってんの…」
「正直な気持ちを言ったまでだろ?なまえ、耳赤いぜ」
「うるさい」

私は別に、兼定に一番にあげたいと思って買ったわけじゃない。これはあくまで自分用だ。それをたまたま、私が優しいから、ほんの施しのつもりでやってやっただけだ。だけどそうだな。来年は、菓子作りがしたい病にかかるかもしれない、なんて。


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