私は兄が好きだ。家族愛などではなく、一人の男として好きだ。兄は誰にでも優しく人当たりも良いけれど、妹である私にはそれ以上にとことんまでに甘い。それが私にとっての唯一の自慢であり、取り柄だった。あの現場を見るまでは。

「ずっと好きでした、付き合ってください」

放課後の校舎裏、なんてありきたりでベタベタな場所に言葉だろう。未だにそんな人間がいて、そんなものでOKする人間がいると思うのか。そんな風に何様なのかと問いたくなるような思いを脳内で繰り広げていると、告白された人物、燭台切光忠は少し悩んでからわかったと呟いた。瞬間兄の目の前の少女は泣き始めて、嬉しそうに顔を赤らめていた。

「は?」

意味がわからない。兄がこの世で一番大切なのは妹である私なのではなかったのか。気付いた時には泣いていた。顔を青ざめさせて、今にも倒れそうな面持ちで泣いていた。こんなになって泣いているのに兄はちっとも気付かない。意味がわからない。意味がわからない。手を繋いでそのまま校門へ向かっていく二人を涙の止まらぬ目で見つめながら、私は理解し得ないでいた。





「お兄ちゃん」
「ん?どうしたんだい、なまえ」

泣き腫らして帰った夜、部屋で本を読んでいた兄のところへ行くと、泣き顔を見てすぐに心配そうな言葉を放った。全部全部浅はかで思慮に欠けている兄のせいだというのに。私は慌てる兄のことを気にもとめず淡々と思っていることを吐き出した。意味がわからない、と。

「どうして付き合うの」
「告白されたからだよ」
「なまえのことはどうでもよくなったの」
「そんなことない、僕はなまえが世界で一番大好きだよ」
「じゃあどうして付き合うの」

そこまで言うと、兄はそっと私を抱きしめて、よしよし、という声とともに私の頭を撫で始めた。

「ごめんね。やっぱり、付き合うのはやめにするよ」

私は嬉しくなって兄の身体にしがみついた。私の世界で一番大好きで大好きでたまらないお兄ちゃん。でもね、ほんとは私の本当のお兄ちゃんじゃないってこと、私は知ってるんだ。

お兄ちゃんは子供がなかなかできなかったお父さんとお母さんが孤児院から貰ってきた子なんだって、その孤児院から電話があったの。お母さんのふりをして電話に出たらそのことを孤児院のおばさんが話してくれて、私は思わず飛び上がって喜んだわ。だから安心して、私と結婚しようね。大丈夫、家族関係であるのがダメなら私かお兄ちゃんがこの家と縁を切ればいいの。もう何も心配することなんてないわ。ああ早く、私が16歳になればいいのに。そしたら、お兄ちゃんと、光忠くんと結婚できるのにね。

「お兄ちゃん、だいすき」

そう言うと兄は、もう一度優しく頭を撫でてから、私に触れるだけのキスをしてみせた。


ALICE+