小さい頃から、私は薬研お兄ちゃんにべったりだった。
それはきっとおそらく、薬研お兄ちゃんが一番面倒見のいい人だったからだと思う。
いち兄の次に大きかった薬研お兄ちゃんは、兄弟たちの面倒を見るのと同じくらい、私のことも可愛がってくれていたと、ぼんやり憶えている。
けれど、いつだっただろうか。ある日突然、部活が忙しいからと私に構ってくれなくなって、私は周囲の目も気にせずわんわん泣いた。あまりに大声で泣くものだから、いち兄や他の兄弟たちまで出てきて、みんなで私を慰めようとしてくれた。それなのに当時の私に効果なんて全然なくて、私はそのまま泣きながら家に戻ったそうだ。
その時のことがショック過ぎたのか、私はそれ以前のことをあまり憶えていない。
だから、それからしばらくして再び薬研お兄ちゃんに声を掛けるには、見た目だけは病弱で大人しそうな風貌なものだから、勇気がいったものだ。一度声をかけてからはまた私は薬研お兄ちゃんにべったりになった。もちろん前ほどではないけれど、それでも負けず劣らずよく遊びに行った。薬研お兄ちゃんは前と同じく部活で忙しそうだったけれど、前とは違い時間を見つけては私に構ってくれるようになった。薬研お兄ちゃんが、高校二年生の冬だった。
薬研お兄ちゃんが高校を卒業してすぐに働き始めてからも、私は薬研お兄ちゃんのところへよく遊びに行っていた。仕事帰りの薬研お兄ちゃんに「お疲れ様」というと、すごく嬉しそうに笑ってくれるのが、とても好きだったのだ。
だから今日も、私は勝手に薬研お兄ちゃんの部屋に乗り込んで、帰りを待っていた。薬研お兄ちゃんが帰ってきたら音で分かるように、クーラーをかけず窓を開けたままにして、じわじわと溶けそうな感覚になりながら待っていた。そのままどうやらうっかり寝てしまったようで、次に目が覚めた時には呆れ返ったような薬研お兄ちゃんが私を見下ろしていた。
お疲れ様、と言ってみるけれど反応は薄い。なんだか急に怖くなって、寝転がっていたせいで皺くちゃになっていた半袖を引っ張るようにショートパンツから伸びる腿に押し付けた。怒っている。薬研お兄ちゃんは、怒っている。それも、中学の時薬研お兄ちゃんが構ってくれなくなる前にしていたのと、同じ顔で。
すると薬研お兄ちゃんはおもむろに近づいてきて、じいっと私の方を見てきた。どうしたの、と口を挟む隙も見せないほど、何かどす黒いものが渦巻いたような怖い表情をしていた。
とっさに上体を起こし後ずさった私の腕を捕まえて、薬研お兄ちゃんは私に噛み付くような、貪るような、初めてするにはロマンの欠片もないキスを私にした。
「なあ、なまえ」
薬研お兄ちゃんは、目を細めて私の頭を撫でると、先ほどのことが嘘のように優しく笑った。
「そろそろお兄ちゃんって呼ぶの、やめにしような」
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