そもそも何故私が獅子王のIDを登録するに至ったのか、きっかけが思い出せない。というかそもそも、登録した覚えもない。そして何故、私の友人と似た愛らしい猫のアイコンをしているのかも、全く意味がわからない。

私は先程軽口を叩いてきた友人とそれに乗ってしまった自分に怒りの鉄槌を落としたい衝動に駆られながら、必死に謝罪文を打っていたーー……。




「おーす」
「! お、おはよ…」
「なんだ元気ねーな、風邪か?」

獅子王は肩から下げていたバッグを机に放り投げて、椅子に座った。いつものようにバッグからゲーム機を取り出している。これと言って、特に変わった様子はない。

「(もしかして気付いてない…?)」

既読がつくのを確認する前に耐えきれなくてトークを削除してしまったので、獅子王がそれを確認したかどうかはわからない。冷静さを欠いていたと自分でも思う。でももしそこでトークを削除せずにいられる冷静さがあるなら、そもそも送信先を間違えたりしていなかっただろう。
誤送信した時日付はとっくに変わっていたし、もしかしたら寝ていたのかもしれない。なんたって獅子王なのだから、その可能性は大いにある。

「し、獅子王…あのさ」
「んー?」
「昨日って、すぐ寝た?」
「いや、ずっとこれやってた」
「あーーー……なるほど…」

一狩りどころの騒ぎじゃないくらい狩りに行ってたんだな。しかしとなると、見られているよりさらに困ったことになる。

「それがどうかしたか?」
「い、いやあ…なんでも…?」

つまり今以降に獅子王がそれを確認するわけで、それがいつになるかわからない私は、いつまでも死なない程度に喉を絞められ続けているような気持ちでいなくてはならないわけだ。その上にもし目の前で爆笑でもされた日には、おそろしくて身投げしてしまいそうだ。誤送信してしまった言葉が獅子王に対して嘘だったらよかったのに。というかそもそも、獅子王とID交換してなかったらよかったのに。ほんといつ交換したんだ。

「そーそー、昨日そのまま寝落ちしたせいで頼みの綱のスマホはご臨終してるわゲームん中でもご臨終してるわで散々だったぜ!」
「あれ、てことは携帯家?」
「おー、なんか問題あったか?」
「いや、問題は、ない…けど……」

背に腹はかえられぬと、友達に送る予定だったふざけたメッセージを間違えて送ってしまったのだと告げる。

「ふーん、何て書いてあるんだ?」
「い、今言わなきゃダメ?」
「明日からかわれるのと今笑い飛ばされて家でトーク削除されるの、どっちがいい?」
「う…」

友達が送ってきたのはいつも私のおかげで助かってるでしょ?という、なんの変哲もない友人同士のふざけ合いっこみたいなメッセージだった。だから悪ノリして私は……

「だ、大好き…」
「……?もうちょいでかい声で」
「だから、大好きだって…」
「………わ、悪い、もっかい」
「もう!だから大好きだってば!!」

少し大きな声でそう言ってから、ハッとした。目の前で狩りに勤しんでいたはずの獅子王は、此方を真っ赤な顔をして見上げている。周りはざわついていてこちらを気にする様子がないのが唯一の救いか、いや、そんな救い、焼け石に水、かな………獅子王が赤い顔をしたまま「俺もだけどさ」と言いのけてしまうものだから、私と獅子王はそのまましばらく固まることしかできないでいたのだった。


 後日、件の友人から私が登録したおかげで上手くいったじゃんとメッセージが来た。今度は宛先を間違えずに返事を送信した。「調子にのるな」、と。


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