「なまえさん、暇ならかまってくださいよ」
バカになると楽だ。
人は変に期待をしないし、たまに期待に沿ったことをすると褒めてくれる。
変なことを言っても「鯰尾だから」と笑って許してくれる。
「暇じゃないですけど、いいですよ」
「やった、さすがなまえさん」
縁側で繕い物をしていたらしいなまえさんは、そっと針やら糸やらを裁縫箱にしまって、こちらに微笑む。
安全になったことを確認して彼女に飛びつこうとすれば、
その手には乗りませんよとばかりに後ろ髪を引っ張られた。
「だまされませんよ、鯰尾くん!またくすぐる気でしょう!」
「え〜そんなことな……?あれ、」
なまえさん、その手どうしたんですか。
届いたかどうかさえわからないその小さな声を聴いて、彼女は困ったように微笑んだ。
火傷を、したんだそうだ。
「火傷…………」
「でも大丈夫ですよ!見てくれは悪いですけど今はそれほど痛く……鯰尾くん?」
「あ、何ですか?すみません、ちょっと今日の晩御飯のこと考えてました!」
…思い詰めていても、とぼければバカになれば誤魔化されてくれる。
………だから、俺は、
「?! ちょ、くすぐらないでくださいなまえさ、あはっ、あはははは!」
「いつもの仕返しです!」
「ふっ、ははは、あはははっ…!!もっ、もうだめ!降参!降参です!!!」
「こうやって笑っていると楽しいですね、鯰尾くん」
「でしょう?だから、これからもかまってくださいね」
「……鯰尾くんも今、幸せですか?」
「え?」
「鯰尾くんがわたしと話して幸せになれるなら、わたし、毎日鯰尾くんとこうしてお話ししたいです」
「…、っ……!」
あーもう、根っからのバカには敵わないや。
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