「……失礼します…う」

図書室の扉を開けた先には、あまりに閑散とした景色が広がっていた。
人がいて静か、だったらまだよかったものの、人の気配すらない静けさは少し不気味さを感じずにはいられない。

心なしか電球の光も頼りなく見えるし、なんなら埃っぽくさえ感じる。
実際は毎日昼休みに各クラスによって代わる代わる掃除がされているので、そんなことは絶対にないのだけれど。

「(まあ、集中できると思えば…)」

自分は勉強をしに来たわけだから、そんな見かけばかりの事実はなんら関係がない。
そう思い込んで図書室にある教材を数冊、いそいそと席へと運ぶ。ノートも開いたし、鉛筆も持った。これで準備万端だろう。何かひとつ忘れていたとすればそれは、私があまり勉強熱心ではないことではないだろうか。






「……ん、あれ………?」

ふと気付くと、書きかけの文字と蚯蚓の様に糸を引いた鉛の跡、それからだらしなくこぼされた私の涎の跡が、ノートに刻み込まれていた。
恥ずかしさのあまり勢いよく体を起こすと、何かが私の肩からばさりと落ちる音がした。振り返ると白い布が落ちている。これは、白衣だろうか。

「……これ、もしかして先生の…」

おそるおそる自分の肩周りの匂いを嗅いでみると、薬品のなんとも言えない香りが鼻をついた。
保健室の香りが、私を包み込んでいる。それはまるで、先生に抱きしめられているような感覚だった。
それがなんだか無性に恥ずかしくて、先生の白衣を拾うことさえ恥ずかしいことのように思えた。

「…!……タグに何か書いてる…!」

白衣を落としたことによって、思いもよらぬ発見をした。おそるおそる顔を近付けて確認すると、そこには3-A薬研という文字。

「薬研…先生は、薬研っていうんだ」

そこまで言って、ふと気付く。

「…………3-A?」


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