私と獅子王には、とある決まり事がある。
「おかえりー!ししおー!」
「おー!ただいまー!」
それは、帰還時に必ず抱擁を交わす、ということだ。
「あーやっぱ主は冷えてんなー」
「獅子王があったかいんだよ」
「そうかあ?」
すりすりと寄せられる獅子王の頬は温かい。
今では当たり前になったこの温もりも、以前は知らないままだった。
事の始まりは、とある冬の日。
雪の降る寒い日に帰ってきた獅子王がもこもこした上着を纏う私を見て、「太った?」なんてデリカシーのかけらもない一言を放ったからだった。
「ふ、ふふふ太った?!急に?!なんで!?」
「なんか今朝よりもこもこしてるからさ」
「え……あ、ああ…そういう……」
朝獅子王を見送った時は、今より少し暖かかったのだ。だから特に何も羽織っていなかったのだけれど、まさか上着を羽織っただけで太ったと言われるとは思わなかった。
「これは防寒のためにもこもこしているのであって、決して、けっっっっっっして私が太ってるわけではないんですよ」
「ごめんて」
「あったかくしてただけなのに傷つくとは思わなんだ」
もふもふとファーに触れながらぶつくさと文句を言っていると、獅子王の視線を感じる。どうしたの、と声をかけるけれど、獅子王の視線は動かないままだ。
「俺も触っていい?」
「? いいよ」
私が脱いで渡してあげようとするよりも早く、獅子王の手が私の首元に伸びた。
「鵺みたいなもんか」
「まあ、獅子王にとってはそんな感じかも」
「あ、じゃあ」
「こうしたほうがあったかいんじゃね?」
首元に伸びていた手はそのまま肩を伝って背中に回る。どきりとする暇もなく、獅子王は簡単に私を包み込んでしまった。
「てかなまえつめたっ!めっちゃ冷えてんな!」
「っま、まあ、外にずっと居たからね…」
「あーーーでももこもこあったけーーー」
「で、でしょ?!太りたくもなるでしょ!?」
なんて冗談を付け加えると、獅子王はごめんごめんと誠意がなさそうに謝った。離れていく獅子王はまるで気にしていない様子で、私もそんなもんかと気にしないふりをした。
それからだ。獅子王が温めてやると称して抱擁をするようになったのは。
最初は恥ずかしかったそれも、今ではない方が不自然なほどだ。おそらく、寒い季節が終わっても、この行事は終わらないんだろう。
そう思っていたある日。
私は獅子王との抱擁を見ていたらしい一部の短刀や脇差の子達とも帰還時に抱擁を交わした。そのまま後ろにいた獅子王とも抱擁を交わそうと手を広げて待っていたのだけれど、獅子王に動きはない。
「? どうしたの、獅子王」
「あ、おう!えーっと……」
獅子王は同じように手を広げようとして、すぐにやめてしまう。再びどうしたのかと問いかけると、獅子王は目線をそらしながら言いづらそうに話し始めた。
「なんか、やだなーって…」
「え…」
"やだ"………?
「俺と主だけのことだったのに、他の奴とも、ってさ……」
「…それって、」
「あー!やっぱなんでもねー!忘れてくれ!」
手を大袈裟に横に振ったかと思うと、獅子王はりんごみたいな顔をしたまま何処かへ走り去ってしまった。
つまり、それって…
「や、やきもち…?」
「嘘だあ〜…!」
そう口から滑り落ちる言葉とは裏腹に、私の顔は先ほどの獅子王と同じように真っ赤に熟れているのだった。
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*アンケコメありがとうございました!
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