審神者という人に呼ばれ、人という身に落ちた刀の心は、真髄は。はたして人か神か。
少なくとも、あいつと関わるうちに俺達は人として生きてしまっているのだろうな、と、山姥切国広は独り言ちた。
「大将、馬小屋の掃除終わったぜ」
「はーい!着替え出しとくからお風呂どうぞ!」
刀として生きていることなんて、敵を斬っている時だけだ。敵を倒す目的で使役されてるとは云え、何も四六時中戦っているわけじゃない。
「山姥切国広ー!今日はここまでで…うわあ、今日もまた随分汚れたねー!」
「…泥にまみれていたほうが、比べられずに済むからな」
「も〜またそんなこと言って〜、ほら!お風呂お風呂!」
農作物を育て、調理し、それを食す。汗をかけば風呂にだって入る。こんな人間じみたことを繰り返していれば、感覚だって人になっていく。
人の温もりを、感じられるようになってしまう。
「……俺に触れると、あんたまで汚れてしまうぞ」
「やだなあ、みんなにだけ汚れ仕事させておいて、私だけ綺麗でいようなんて思わないよ」
「…………」
「それに」
土と泥にまみれ、爪の間も黒ずんでいる。その手があらわになったのは、主が山姥切国広の手をとって握りしめたからだった。
「汚れてても、山姥切国広は綺麗だよ」
「……!」
綺麗とか、言うなと。何度も何度も言っているというのに。そう山姥切国広が繰り返してもなお、主の言葉には、強く山姥切国広を肯定する気持ちがこもっている。握り締められた手から、主のあたたかな気持ちが流れ込んでくる。
それを受け入れたくなくて、受け入れてしまうのが怖くて、山姥切国広は手を振り払った。
「……風呂に行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
ーーーいっそ、捨て駒のように軽んじる奴であればいいのに。そうすれば、最初から何も期待せず、何も恐れずに刀として生きられただろうに。
だというのに、彼女は今日も、俺を慈しむ。
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