柵のしじま
向日葵畑を見下ろしながら、山姥切国広は溜息を吐いた。
強くなりたかった。そのために、ここを一度離れようと考えていた。
見下ろした先にいる主を見て、山姥切国広はそっと拳を握りしめた。
彼にはひとつ気がかりがあった。
主が修行の申し出を断っているのをすぐ側で見てきた。理由はいつも決まって「もう少し待ってね」、だ。
「他の仲間が断られているのに、写しの俺が断られない筈もない」
自然とそう考えて、いつまでも言えずにいた。
「山姥切国広!」
「……どうした」
先程まで短刀達と遊び呆けていた主が、近侍として本丸の中核に居た俺の元へと駆けてきた。外はまだ明るいが、もうすぐ申の下刻に差し掛かる頃だろうか。
「風呂なら一期一振が沸かしていたぞ」
「うん、短刀ちゃんたちが今入ってる!」
「なら、用はなんだ」
「話聞こうと思って」
「…話?俺に特に用はないが」
「最近、悩んでるみたいだからさ」
「……!」
知られて、いたのか。
なら、結果はどうあれ伝えた方が話が早くて済む。潔く断られた方が、諦めもつくというものだ。
「わたしに出来ることなら手伝いたいし…」
自分じゃ力になれないかもしれないけど、と付け足す主に、山姥切国広は力なく目を閉じた。
やはり、まだ時期ではないのかもしれない。主はきっと、手伝える悩みであるだろうと、思っているのかもしれない。
主を哀しませる事は、少なからず本意ではない。悩みなどないと言ってやるのが、最良の答えだろうかーーー…
「それに、その悩んでいることがなんだったとしても、山姥切国広が決めたことなら尊重したいから!」
見透かすような透き通った瞳で見られ、山姥切国広は眼前の布を引っ張りながら、敵わないな、と思った。
主は分かっていたのだ。俺がいつか旅に出るだろうということに。そして、俺がそれを受け入れられるかと、不安がっていたことに。
俺は、国広第一の傑作で、あんたが選んだ、一番の刀だ。…それでも、偶にそれを塗り潰す様な葛藤が、不安が。闇が、押し寄せる。
それから、逃れるには。それに、打ち勝つにはーーーー……
「……聞いてくれ。頼みがある」
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