「邪念を払ってほしい?」

目の前に現れる邪念を払ってくださいと言い放った私に、石切丸さんは少し驚いた顔をしていた。
けれどすぐにいつも通りの優しい表情になって、私に柔らかく笑いかけた。

「はい…どうかお願いします、石切丸さん…!」
「とりあえず、話を聞こうか。どういう邪念かな?」

私は一つ、深呼吸をしてから、しっかりと石切丸さんの目を見る。
「みんなのことを、心配してしまうんです」と。
石切丸さんは入ってすぐにした顔よりもさらにひどく、驚いた顔をしていた。

「みんなが心配しなくてもいい、そう言っているのに、私はそれを信じてあげられないんです。だからどうか、この邪念をお祓いしてください」

まくしたててそう言うと、石切丸さんは薄く笑ってから、小さく息を吐いた。
まるで我が子に教えを説くかのような、優しい顔だった。


「おいで、なまえ」


促されるままに広げられた石切丸さんの腕の中に収まる。
私が来るまでのんびりと日向ぼっこをしていたらしい石切丸さんは、とてもあたたかかった。

そのまま背中を優しく撫でられて、私は何故だか泣き出してしまった。宥めるような石切丸さんの声が頭上から聴こえる。
石切丸さんの声はとても、すごく、安心する。

「心配は決して信頼していないことにはならないよ。君が心配するのは、みんなのことが大好きだからだろう?」
「………はい」
「それなら、きっとその心配はみんなにとって糧になると思うよ。みんなも君が大好きだからね」

石切丸さんの腕の中は、ぽかぽかしていて、まるでお日さまみたいにあったかい。
干したての布団のようないい香りがして、少しずつ瞼が重くなってくる。
石切丸さんの声がだんだん遠のいっていったかと思えば、私はそのまま夢の中に溶けてしまった。



「それに、私も君がーーーー…」

言いかけて、言葉を飲み込む。
先程まで震えていた体が、今は小さく上下するだけになっている。

「…おやおや、眠ってしまったか」

一番言いたかった言葉を、聞かずに眠ってしまうなんて。

微かな寝息をたてながら私の中で目を閉じている彼女の頭に、そっと手を乗せる。
私の君への思いは、ちゃんと届いているだろうか。

艶やかな髪に指を通してみれば、小さく君が笑ったような気がした。


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