The first day






  拝啓、母上様父上様。最近肌寒くなってしましたが、いかがお過ごしでしょうか?
昨日の夜まで同じ屋根の下で寝ていたはずなのですが、目が覚めたら私は真っ逆さまに落ちています。
しかも頬を抓ってみましたが痛いです。夢ではありません。
しかし人生に辛さを感じる頃ではありましたが、自殺願望はこれっぽっちも無かったと思います。
それとも、夢遊病的な何かで飛び降りてしまったのでしょうか。ああ、まだ生きていたかったのに。
というか、うちのマンションはマンションにしては低く、こんなに長い間考えていられるほど高くは無いと思うのですが何故こんなにぽろぽろとたくさん零しているのでしょう。
ああ、きっと走馬灯みたいなものですね、どうしよう。ほんとに死んでしまうんじゃないか―――…。


  そう、とある少女が甚だ可笑しい状況に居る数秒前。
 とある王国、とある空間にて。




「なんだあ、それ?」

きょとんとした表情でそう訊ねる少年は宙に浮いていて、常人と違うことを感じさせている。
その彼に尋ねられている青年もまた、煌びやかな服装に力強い眼差し、従える者の存在などから、
位の高い者なのだとその国の者なら容易で分かるであろう格好をしている。

だがその見た目にそぐわぬ表情で、彼は楽しげに少年に語りかけた。

「飲むと、なにか面白いことが起こるらしい。気になるんだが、勿体無くて取ってあるんだ」
「面白いこと?」

少年がそう問うと後ろの従者が抱えている猫が小さく鳴いた。
ほんの少しその従者がその鳴き声に微笑むけれど、すぐにまた険しい顔つきへと変貌させる。


「そんなに面白いなら早く飲んでみろよー!」
「いや…だがこれは飲んだ本人しか面白くないらしくてな…自分だけ楽しんでもなあ…」
「ふーん……」

「じゃあ俺に飲ませろよ!」

ごくり、と音を立てて青年の喉がなった。
明らかに挙動不審な様子で相槌をうち彼にその怪しげな小瓶を渡すと、
渡された少年は勢いよく飲み干した。

 …と、ほぼ同時刻。


「えぇええええっあっあぶな―――い!!」
「あ?」

ガシャン、と大きな音を立てて色々なものを潰して落ちてきたのは、紛れもなく先ほど心の中で泣き喚いていた少女で。
下敷きとなってしまった少年は目を擦りながら彼女の方を向く。

と同時に「しまった」という声が従者から漏れる。
小瓶を渡した青年も慌てて駆け寄るが、少年の視線は彼女に注がれたままだ。

「…え?え?ジュダルちゃ…え?なんで?わ、私…?」
「………おまえ、名前は?」
「えっあ!ご、ごめんなさい乗ったままで!退きます!退きますから!」

少年の上から退こうとした少女。
しかしその行動は少年の動作によって止められる。

「待て。動くな。名前を言え。」
「……っ……なまえ!苗字、なまえです…!」

目を見開いた後にそう叫ぶよう言った少女は、そのまま少年の胸に吸い込まれるように覆いかぶさる。
頬を桃のように染め、疑問符を浮かべている彼女を他所に、猫は従者の腕から逃げ出し嬉しそうに鳴いた。

そんな彼等の様子も横目に、何でと言いたげな表情で少年の顔色を窺えば、彼は何処か嬉しそうに、
それでいて幸せそうな表情で、こう言いのけた。

「なんだよ…だって俺お前の事好きなんだから、当たり前だろ?」
「……え?」


……母上様父上様。私はどうにかこの場を切り抜け、そしていち早く状況を理解し打開したいです。
これからますます寒さが厳しくなっていくでしょうが、お身体にご自愛ください。
私はどうやら、ご自愛している場合ではなさそうです。敬具




1日目

(ジュダルに、好かれた。)





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