The second day






  豪華絢爛な部屋の中で、少女は三人の青年に囲まれていた。
 青年達は困った表情をしていたが、それ以上に少女は顔面蒼白で、時折火のついたように真っ赤になるのを繰り返していた。
 ようやく彼女の前に立つ一人の青年が咳払いをしたかと思うと、その重い口を開いた。


「なまえさん…だったかな?君はどうして此処に?」
「あ…いや…それが分かれば苦労はしないんですが…」
「貴方は確か彼の名を知っていましたね?どうして知っているのかお教えいただいても?」

ギラリと光る怪しげな目に、思わずドキッとする。
思わずジャーファルさんかっこいいなんて本音を漏らすと、横に(くっついて)いる彼があからさまに嫌そうな顔をした。

「何言ってんだよ?俺のほうがカッコイイだろ?な?な?」
「えっあっそ、そうですね…?」
「なんで疑問系なんだよ!」
「ごめんなさい世界一かっこいいです!!」

そう言えば満足したかのように唇を寄せてくる。
咄嗟にかわして彼から視線を背ければ、またあからさまに口を尖らせた。…可愛い。

「ジュダル。お前がいると話が進まない。少しの間向こうに行っててくれないか」
「うっせーよバカ殿、そう言って俺のなまえになんかするつもりなんだろ?」

敵意むき出しと言った様子のジュダルに、私はくいっと布を引っ張った。
懇願するように少しだけ待ってて欲しいと頼めば、先ほどとは裏腹にすっと去っていった。
突然聞き分けのいいわが子を見たような気分だった。


「…ジャーファルの名前も知っていたな。じゃあ俺は?」
「……七海の女ったらしさん」
「え」
「それだけ分かれば充分です。それでは、事情をお聞かせ願えますか?」

固まった覇王改め葉王は置いておいて、私はジャーファルさんに分かる限りのことを説明した。
まさか夢の世界の出来事であろうトリップが出来るとは思ってもみなかったけれど。

一通り話し終わった後、おずおずと扉が開く音が聞こえた。
振り返ってみると、物寂しそうなジュダルがこっちを羨ましげに見ていて、微笑ましくなる。
もういいよと確認も取らずに言うと、彼は勢いよく私に飛び掛った。

「……寂しかった」
「…ごめんね?許してくれる?」
「………敬語やめたから許してやる」
「えっ…」

確かにさっきまで敬語だったな、と思ったと同時に、そんな事を気にしていたのかと思うと可愛くて仕方ない。
ぎゅむぎゅむと私の肩に顔を埋めるジュダルの髪が首に当たって少しくすぐったくて、身を捩った。

「…帰るぞ」
「? 何処に?」
「何処って、煌帝国に決まってんだろ!」

俺とずっと一緒に居ようぜ!と軽々しく口にするジュダルに思わず口を開いたまま固まった。
ひょいっと持ち上げられ、絨毯に乗せられようとしたとき、
葉王…じゃなくてシンドバッドさんがそれを止めてくれた。

「ジュダル、もう少しだけ待ってくれ。俺は彼女と何も話していない」
「はあ?!いい加減にしろよ〜俺さっさと帰って遊びたいんだけど!」
「…出来るだけ手短に済まそう」





 風が強く吹いていて、ほんの少し寒い。
肩を抱いて身震いしていると、ジュダルが後ろからぎゅっと抱きしめてくれる。

「大丈夫か?」
「うん、大丈夫…」

ジュダルが居るから、と付け足すとよりいっそう強い力で抱きしめられた。
ちょっと、痛い。

「バカ殿と話してから元気ねーからさ…なんかあったのかと思ってよ」
「…そんなことないよ?ちょっと寒いだけだし!」

空元気を悟らせないようににっこり笑うと、
私の顔を覗き込んでいたジュダルは私を向き合うよう座らせると、もう一度力強く抱きしめた。

「………」

「単刀直入に言うと、ジュダルは惚れ薬を飲んでいる」
「え、えぇ?!」
「彼に生物を愛してもらおうと、猫も用意していたんだが…まあいい」
「あ、あの…効力はどれくらいで無くなるんですか?」
「…一週間もすれば君の事は綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。だから頃合を見てシンドリアにおいで。歓迎するよ」


「(全部忘れる…か)」
「なーなまえ!帰ったら一緒に飯食おーぜ!」
「なに食べるの?桃?」
「さっすが俺のなまえ!よくわかってんじゃねーか!」

ぐりぐりと頭を撫でられ、少しの間こんな関係でいるのも悪くないかな
なんて、呑気なことを思った。



2日目

(ジュダルに、運ばれた。)






 

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