The fourth day







  目の前に、ジュダルが座っている。
 紅玉のいない部屋はやけに静かで居心地が悪いうえに、ジュダルも何故か言葉を発さない。
 紅玉はこちらには来ない。勿論それはジュダルの妨害でも紅玉の遠慮でもなんでもなくて、皇女様としての用事だからで。気の置けない友達がいない場で、気の置ける想い人とふたりきり。そのことが尚更、不安を煽った。


「「…………」」


私とジュダルは以前、どんな会話をしていただろう。思い出そうとしても、すぐには出て来ない。
そもそも、私とジュダルの会話はほぼ惚れ薬によるものだったのだから、ジュダルと私の関係なんてある意味その程度のものなのかもしれない。そう考えると口が開くはずもなかった。

「お前、帰ってきてからババアにべったりだよな」
「!」

先に沈黙を破ってくれたのはジュダルだった。そうかな、なんて我ながら返し甲斐もなく曖昧な返事を返していると、ジュダルはワントーン低い声でもう一度尋ねてくる。

「そんなに楽しいのか」

その声にようやく、ジュダルの機嫌が悪いことを悟った。

「毎日飽きもせず一緒にいんじゃねーか、ニコニコヘラヘラ楽しそうにさ」
「いや、でも割と大変な時もありま…あるよ…昨日も服いっぱい持ってこられて大変で…」

ジュダルの口調は乱暴で、どんどんと心が重くなっていくのを感じる。早くジュダルを喜ばせなければ。早く機嫌をとらなければ。
けれも、ジュダルの機嫌の取り方なんて、もう分かるはずもなかった。

「じゃあ、なんでババアのとこばっか行くんだよ」

ジュダルの表情は、やはり拗ねた子供のようだった。

「……べつに、俺に会いたくねぇならいいけどよ……」
「!」

けれど、少なくともそれは、玩具に対する優しさのかけらもない声ではなかった。

ジュダルはあの日、忘れちゃうかもしれないと私が怖くて仕方なかったあの日、ちゃんと言ってくれていた。私のことが好きじゃなくても、好きだった気持ちを理解できなくても。「私に会えてよかった」、と。

それなのに、どうしてこんなに怖がっていたんだろう。

あの時ずっと泣き止まなかった私を抱きしめてくれたのは、今のジュダルだったのに。


「ごめんね、ずっと紅玉ちゃんと遊んでばっかりで」
「……わかってんなら、ちゃんと俺んとこいろよな」
「うん!」

ジュダルが私を好きじゃなくたって、関係なかった。私がジュダルを好きってだけで、それだけで良かったんだ。

だって、ジュダルの目は、今もちゃんと私を映している。


「あのね、ジュダル」
「ん?」






「私、ジュダルのことが大好きだよ!」





4日目

(ジュダルに、恋する。)





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