The third day
「お前は俺のオモチャなんだからな!」
昨日言われたその言葉を思い出して、思わずため息をつく。私がいなくて機嫌が悪かったのは、玩具を取り上げられてぎゃあぎゃあと喚いている幼子みたいなもの、だったということか。と思うと。
それでも、私に執着してくれているだけいいのだろうか、なんて。着せ替え人形のようにあれこれと服を着せられながら、そんなことを考えた。
「とっても素敵じゃなぁい!」
「そ、そうかな…」
「さっきのも良かったけれど、これも可愛いわねぇ」
「そうだね…」
ーーー正直どれも一緒に見える、という私の感想は胸に仕舞っておくことにして。
紅玉の爛々と輝く瞳には、同じく煌々と輝く私が身に纏った衣装が映っている。紅玉の提案で、煌らしい衣装を着てみることになったわけだけれど、紅玉はいわゆる友達とショッピング!的なことに私の想像以上に憧れていたらしい。途中からあからさまに疲れ果てている私も気付かぬ様子で、あれこれと召使いに(私の)着替えを命じていた。
「これなんかがいいと思うのだけれど、ジュダルちゃんの趣味には合わないかしら…」
「うーーーん…ジュダルに女の子の服の趣味とかあるのかな…」
「なさそうよねぇ……」
名目上は"ジュダルの好みの女性になろう!大作戦"なので、余計に正解もわからず答えも出てこない。尚更紅玉の服選びにも熱が入り、終わりが見えない、という感じだった。次第に服だけでなく髪やら顔やら何をされているのかわからないがあれこれと熱心に弄られている。
かれこれ何時間こんな時間を過ごしただろうか。頭のどこかでそろそろかな、なんて思っていた通り、機嫌の悪いジュダルが蹴破るように乱暴に扉を開いた。
「おいなまえ!いい加減帰っー……」
途端、私を見て固まってしまった。
「どーおジュダルちゃん!私監修のなまえ姫よぉ!」
「…………」
「あ、あら?綺麗すぎて言葉もないの?」
つかつかとぶっきらぼうに近づいてくるジュダルに内心ドキドキしていると、ジュダルは怖いほど真顔でじっと私を見ていた。
「お前それ、鏡見たか?」
「え?」
「見てみろよ」
渡された鏡に映っていた私は、まあありきたりな言葉で言うと自分じゃないみたい、だった。
私が着ていた学生服と似た風貌の、黒と赤の少し背伸びした着物。それに合わせた目尻と唇に紅をさした大人っぽい化粧。私にはまだ似合わない気もしなくもなかったが、すぐにその上にあるお団子頭の方にに目がいく。お団子には三つ編みが編み込まれていて、少しだけジュダルっぽさを感じて嬉しくなった。……のもつかの間。
「な?すっっっっげえ厚化粧!ババアじゃん!」
「…………!!!!!」
「ちょ、ちょっとジュダルちゃん?!せっかく綺麗にしたのにそんな言い方…っ!」
「ほら顔貸せよ」
「もご?!」
紅玉が止めるのも聞かず、ジュダルにどこから出したのかも分からない濡れた手ぬぐいでごしごしと乱暴に顔を拭かれながら、前も見えぬ暗闇の中、私は悟ってしまった。
母上様、これがきっと、失恋ということなのですねーーー……
「ほら、何もしてない方がかわいいじゃん」
眼前から手ぬぐいが消えて光が差し込んだかと思うと、ジュダルの顔が間近にあった。
ぼそりとこぼしたその言葉は、聞き間違いだったのか幻聴だったのかわからない。
「…………え」
「さっきよりは、だけどな!!」
急に大声を出したかと思うと、突然現れたジュダルはまた足早に出て行ってしまう。
紅玉が「なんなのよぉ〜!」とぷんすこ怒って気にするなだとかちゃんと綺麗だったとか色々と言ってくれていたけれど、私はジュダルが去った方を見つめたまま、何も言うことができなかった。