The fifth day







  誰かに呼ばれたらしく珍しく自室に居ないジュダルを待つべく、ぽつんと部屋に一人でいるなまえ。
 「昨日も紅玉の部屋でこうしてたなあ」と考え続けるのにももう飽きてきた頃だ。
 それに、その考えを頭に浮かべ続けるのは、とある想いが彼女の頭に張り付いて離れないからだった。


「……はーあ、めんどくせ…」

無駄に長ったらしい廊下を頭の後ろで腕を組みながら練り歩く。
皇帝陛下の拝謁、なんてどうでもいい職務。
豚野郎は大人しく動物小屋で啼いてろっつーの。
こんなこと親父共の前で言ったらまたグチグチ言われるだろーけど。

小さく溜め息を零すと、目前で揺れるルビーの髪。
その隣に求める黒髪があると信じて、笑顔で声をかけた。

「おいババアー!なまえも一緒かー?」
「あらジュダルちゃぁん、それが聞いてよぉ」

長話が始まると思い、思いっきりしかめっ面をして、その場を立ち去ろうとしたけれど、
次に発せられた彼女の名前に思わず歩みを止めた。

「なまえったら誘っても遊んでくれないの…なんだかぼーっとした様子だったし…」
「…ぼーっとしてた?」
「ええ、なんだかずっと空を眺めて…」
「………」

なんだか嫌な予感がして、不安が募って募って仕方なくって、
後ろで驚いたような声で俺を呼び止める紅玉の声も聞こえないほどに、駆け足でなまえの元へと急いだ。


「なまえ!!」
「?!」

びくっと大げさに肩を震わせて、なまえは後ろを振り向いた。
視線の先には見たこともないほど焦った表情のジュダルがいて、彼女は困惑する。
もしかして私が気付かないうちに何かあったのだろうか。
彼女はそう思うけれど、周りはしんと静まり返っているし、
何より人の声が聞こえてこないので、ジュダルだけに何かあったのだなとその場に立ち上がった。

「ジュダルちゃん、あの…」
「駄目だぞ!!」

口を開くとほぼ同時に、なまえの肩を強い力で抑え掴む。
ゆさゆさと彼女の肩を揺らしながら、何度も何度も嫌だ、駄目だ、許さないと呟いている。

「な、なんのこと?わたし何も…」
「とぼけんなよ!」

口を歪ませて、大事なものを奪われたような表情で私を睨むように見つめたあと、小さな声でぽつぽつと声に出す。
「シンドリアに、帰る気だろ」と。
突然出た思いもしない言葉に何も言えないで居ると、
肯定と受け取ってしまったのかジュダルは彼女を力の限り引き寄せた。

「やだ。絶対、やだ。離さない。死んでも絶対離さない」
「ジュダ…」
「聞きたくない!俺は、お前が離れてく言葉なんて、聞きたくねえよ!」
「ちがっ…!お願い、聞いて」
「俺は…!俺は、お前が居なきゃ…!!」

骨が折れてしまうんじゃないかと思うほど、身体がミシミシと聞こえるほどの音を立てて悲鳴を上げていた。
何を言ってもジュダルになまえの言葉は届かない。届かなくて、届かなさすぎて、苦しくなる。
彼女のそんな想いも伝わらず、ジュダルは逃がさないとばかりに必死で彼女を捕まえる。
僅かばかり自由に動くことが出来るのは、首から上の、抵抗することの出来ない所ばかりで

「………すき」

ぽつり、と。涙が流れるのと同時に口から言葉が漏れた。
首筋に顔を埋めて何もかも拒絶しようとしていたジュダルは、驚いた様子で彼女の顔を見つめた。

「……なまえ…?」
「すき。だいすき。大好きだよジュダル」
「…え、でも、だって、お前…!」
「私も、ジュダルと離れるなんてやだよ」

目を見開いてなまえを見つめていたジュダルの表情は、段々と笑顔になっていく。
いつもの楽しそうにからかうように笑ういつもの顔ではなく、とても、とても嬉しそうに。

「……はじめて、お前の気持ち聞いたな」
「…はじ、めて?」
「そうだよ。いつだっておまえは、俺の気持ちを受け流してばかりで、何も教えてくれなかった」

肩を掴んでいた力は次第に弱まり、痛みはなくなった。
けれど下を向いてそう話す彼の言葉に今度は胸を痛めていると、
哀しむ必要はないと言わんばかりに彼は目頭を熱くしてこう言った。

「…バカ。俺の方が好きだよ」


どちらからともなく口付け合うと、そのままジュダルの寝具に倒れこみ抱きしめ合った。
目の前で微笑むジュダルの表情が、昨日と同じように優しくて幸せそうで、
彼女は何度も何度もジュダルに愛を囁いた。

「…ジュダル、だいすき」
「俺のほうが大好き」

ジュダルが綺麗な長い睫毛を伏せて、彼女の唇にそっと口付けを落とす。
そのお礼をするかのようになまえからも口付けを落とすと、幸せそうに二人して微笑んだ。

 心のどこかで感じていた不安なんて、最初からなかったかのように。




5日目

(ジュダルと、笑った。)






 

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