#02



早起きは苦手だ。朝日の差し込む船長室の窓は、憎むべき存在と言えた。低血圧なため寝起きが悪く、船外の見張りもクルーに任せている。よっぽどの緊急事態でない限り、朝は誰も起こしに来ない。起こされる気もないが。

「キャプテン!大変だよ!!起きて!」

ところが今朝、激しく鉄扉を叩く者が一名。いや、一匹。声色からただならぬ様子が伺える。ベッドに横たわったまだ醒めきらない頭を、無理矢理奮い立たせて起き上がる。多分敵船だろう。俺を起こすということは、俺がいないとまずいほどの敵。海軍だろうか。

「どうした、敵船か。」

起き上がりながらドアに向かって呼びかけると、ドア越しにいるであろう白熊のベポはえっと…と言葉に詰まってあたふたした様子。コートと帽子、刀を手に取り重い鉄扉を開ければ、荒々しい潮風とともに困った様子のベポが姿を現した。

「なんだ、どうした。」

「さっき嵐がきたんだ!それは切り抜けたから良かったんだけど、海に小舟が浮かんでるのを見つけて、そこに人が乗ってて…。」

「生きてたのか?」

たまに難破した船がこの船の近くに流れ着くことがあるが、生きた人間を助けたことはほぼない。この広い海で、そんな幸運は無いに等しい。

「そうなんだ!今シャチが応急処置をしてるんだけど、結構重傷で手術がいるからキャプテンじゃないとダメなんだ。」

「わかった、すぐ行く。」

そういうことなら仕方がない。必死に説明するベポの様子から、その拾った人間というのは相当な重傷を負っているらしい。俺は急いで手術室へと走り出した。

「あっ、でも、待ってキャプテン!」

「あ?」

何故か引き止めるベポは、なんだか言ってはいけないことを言おうとしているような、違和感のある慌て方をしている。一体なんだ。

「あの、いや、なんでもない!」

「なんだ?」

「向こうでシャチが説明するから、早く行ってきて!」

なんだかわからないが、とりあえず手術室へ急いで向かった。船内の階段を降りて廊下を進むと、服に血の付いた数人の部下たちが現れる。

「キャプテン!よかった!早く手術室へ!」

「容態は?」

「腹部に大きな木片が刺さっていて、失血が酷くかなり危険な状態です!」

廊下の奥に進むと、部下が先を越して手術室の扉を開けた。その薄暗い部屋の中に唯一灯っている明かりの下、手術台には横たわる女の姿と、止血をするシャチとペンギンの姿があった。

「「キャプテン!」」

「見せてみろ。」

腕まくりをし、すばやく手袋を身につける。様子を確認しようと手術台に乗る患者に手を伸ばした瞬間、俺はその手を止めた。薄いグレーの髪に、白い肌、気を失いだらりとそこに横たわる女には見覚えがあった。破れてほとんど意味をなさない服の隙間からのぞくのは、CAPTAIN "KID"の刺青。

「あの、キャプテン……。」

シャチが遠慮がちに声をかける。

「……こいつは驚いた。ユースタス屋の女じゃねぇか。」

捨てられたか?はたまた船が難破したのか?後者は限りなくゼロに近い。キッドの一味には優秀な航海士がいたはず。彼女の容態はと言えば、左腹部に尖った棒状の木片が突き刺さっていて、失血も酷い。内臓を損傷している可能性が高い。何より傷を負ってから時間が経ちすぎている。助かるかは五分五分といったところか。

「キャプテン…どうしましょう。」

「とりあえず助ける。話はそれからだ。」



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寝耳にミサイル