#04



「降参。もう何もしない。だから手足を切り落とすのはやめてくれる?」

私はナイフとすり替えられた彼の帽子を被り、そっと両手を頭の上にあげた。あのトラファルガー・ローだ。彼の能力なら以前シャボンディ諸島で目の当たりにした。殺すなど以ての外。陸上での1対1ならなんとか逃げ切れても、この状況では無理だ。

「そりゃあお前の返答次第だな。何が目的だ?」

「貴方こそ何故私を助けたの?敵とわかっているなら殺せばいい。」

「ただの気まぐれだ。殺して欲しいなら今すぐ殺してやる。」

トラファルガーがすぐさま刀に手を伸ばす。なんて男だ。キッドと似て手が早い。

「待って!私は逃げてきて偶然助かったの、ただそれだけ。もうキッドの仲間じゃない。」

私の言葉にトラファルガーは眉をひそめる。ギロリと鋭い目が私を突き刺すように見つめている。なにやら思案しているらしい。無理もない、逆の立場であれば私も心底警戒するだろう。むしろ生かされたことに驚きだ。何故彼は私を助けたのだろう。

「信用できねェな。ユースタス屋に送り込まれたって可能性もある。」

「次の島ですぐに降りるわ。なんならそれまで縛り付けておいてくれればいい。」

「……いい考えだが能力者に普通の手錠は使えねェ。後でくっ付けてやるからとりあえず手足切るぞ。」

「!!」

さすが死の外科医と言ったところか。淡々と刀を鞘から抜く彼に、私は悪寒を走らせ冷や汗が額をつたった。いくら後でくっ付けると言われても、手足を切られるなんて考えただけでおぞましい。しかし彼は容赦なく刀を振りかざした。

「待って!!やめて!」

私は思わず床に尻餅をついて叫び、両手を上げた。渋々といった様子でトラファルガーが手を止める。

「私はキッドを殺すのに失敗して逃げていただけ…!次の島で降りるし、大人しくしてるから…。」

冷や汗が頬を伝う。私の真意を見抜こうとしているのか、彼は無言で私をじっと見据える。この刀も、普段なら能力を使い防げるところだが、病み上がりの今では上手く発動するかわからない。しかしこのままでは本当に手足を切り落とされてしまう。一か八か、抵抗するしかない。覚悟を決めた瞬間、彼がゆっくりと口を開いた。

「……却下だ。」

「"リジェクト!!"」

「!!」

すぐさま振り下ろされた刀はバチッという奇妙な音を立て、さらに光を浴びて彼の手を離れた。彼は一瞬目を見開き、私を凝視する。私の能力は光粒子によるバリアーを発生させ、あらゆるモノを跳ね返し身を守り、時にはその光粒子を使い攻撃する。いわゆる攻撃にも使える万能な盾なのだ。私が目の前に光の盾を作り、それに当たった彼の刀が弾け飛んだというわけだ。しかし発動したにしても、病み上がりの身体には負担が大きすぎる。心臓のあたりがズキリと痛んで、これ以上今は使えないと身体が訴えている。

「……拒絶の能力か。面白ェ。」

「危害を加えるつもりはないの。次の島で降りるわ。」

「まぁ切れないんじゃ仕方ねェしな。」

トラファルガーは一つため息をついて、床に落ちた刀を拾い鞘におさめた。そして何を考えているのやら、ゆっくりと私の横にしゃがみ込む。

「いい考えがある。」

トラファルガーはそう言うと、私の頭に乗る彼の帽子を手に取り、かぶり直した。それは彼の頭にぴったりとはまり、目元に影を落とす。

「今から次の島に着くまでの間、24時間俺がお前を監視する。」

「……は?」

「俺なら何かあればすぐにお前を始末できる。」

怪しげに口端を上げたトラファルガーが、ポケットから手錠を取り出した。ごく普通の金属の手錠。しかし、普通の物よりも2つの腕輪を繋ぐ鎖の長さが長い。1メートル近くある。まさかと思えばそのまさかで、彼は私の右腕にそれを嵌めた。そして彼もまた、左手にそれを嵌める。

「何を……?」

戸惑い焦る私を他所に、彼は乱暴に鎖を引っ張る。おかげで前につんのめった私の顎を、彼が雑に掴んで顔を向き合わせた。

「怪しい行動はとるなよ。」


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寝耳にミサイル