Xmasの夢

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肌寒い日が続いている。先程食堂を通りかかった時に、もうすぐ冬島につくとペンギンさんが教えてくれた。凍てつく気温に両手を摩りながら藍色の海を眺める。


『.........あ、雪。』


手の甲に落ちたのは白い結晶で。視線をあげれば灰色の空にはこれでもかと雲が広がっているが、その分厚い雲間からはシンシンと雪が降り落ちてきていた。

このグランドラインには暦による春夏秋冬は存在しない。私がこの世界に迷い込んできてから換算すると丁度12月中旬〜下旬頃。あちらの世界では、様々なイルミネーションにより街中が彩られていることだろう。
クリスマスは日本ではカップルや友人らで過ごすことが多いのだけれど、海外ではもっぱら家族で過ごすことの方が多い。私はどちらかと言えば後者であり、両親の亡き後、彼らの友人夫妻とその家族と共にその日を過ごしていた。彼らは私達の養父母となって居所を与えてくれたり、いろいろな工面をしてくれた、とても恩ある方々だ。日頃受け取って貰えないお礼を唯一受け取ってもらえる日でもあるため、私達にとっては特別な日でもあった。


『.........今年は無理そうだな。』


クリスマスは元は冬至のお祭りやらミトラやキリストの誕生日やら様々なお祭りと宗教が絡み合ってできたイベントらしい。当然、この世界には存在しないのだろう。


『みんな、元気かな?』


ふと呟く。少しだけキュッとしまった胸元を緩く握りしめた。


『............?』


トントンと肩を叩かれる感触に気づけば、後ろにいたのはセイレンだ。彼女はニコリと微笑むと、指で船内を指し示している。


「......寒いでしょ?そろそろ中に入らないと風邪ひくわ」

耳元の彼女の言葉に一度頷き返すと、身を翻した。



「.....大分、身体が冷えているわね。あそこで何をしていたの?」


彼女の呆れ顔に、苦笑した。少しだけホームシックになってた、なんて言えない。


『今年こそサンタさん、来てくれるかなって思ったんです。私には一度も来てくれたこと、なかったので。』


「サンタさん.......」



『あ、サンタさんっていうのは、サンタクロースといって、クリスマスという日に子供達にプレゼントを贈ってくれる架空の人物のようなもので.....』


元は教父聖ニコラスの伝説が主だっただろうか。日本では一年の中で両親達が自身の子供のために色々と頑張っている日とは、よく聞く話だ。私達の両親はとても忙しい人達だったのでそれどころではなかったし、両親の友人夫妻の方からは日頃から色々と援助してもらっていたためこの日のプレゼントは受け取らないと約束していた。



「........ふぅん。」


暖かい食堂に入ると彼女が用意してくれていたミルクティーを飲みこむ。じんわりと体内に温もりが広がり、少しだけピリピリした。


「......ね、少しだけ目をつむってくれる?」


『目を?』

「良いから良いから。強制催眠は嫌でしょ?」


不穏な言動が聞こえた気がしたのだけれど、特に拒否をする理由もないため私は黙って言う通りにしたのだった。


「ナイト・ドリーム」

彼女の囁き声が聞こえ、急いで瞼を開く。目の前には相変わらずセイレンがニコリと微笑んでいた。


『.......今、能力使いました?』


「ーーーさぁ、どうだったかしら?」


これは能力使ったな、そう確信した私は注意深く自身の身体を見渡す。以前のデイ・ドリームという技で酷い目にあったのは記憶に新しい。

『........裸じゃない』

取り敢えず、先程と変わらない服を着ている。そのことにホッとした私は彼女に向き直った。


『......さっきのは、一体?』


「まぁまぁ、そんなに悪いことはしてないから大丈夫よ。メリークリスマス。」


『..........。メリークリスマス。』


「ーーーあ、そう言えば船長さんが貴女のこと、探していたわよ。」


『え......』

「セイレン、あいつはどこだ?......彼にそう聞かれて、貴女を呼びにいったんだもの。」


急いで立ち上がると、彼女はクスクス笑っている。疑問に思いながらも彼女に紅茶のお礼を言って、ローさんの自室へと急いだ。


『...メリークリスマス?私、彼女に教えたっけ、』


あの挨拶はたまたまだろうか?首を傾げながらも、目の前の船長室の扉をノックする。

『ローさん、私です。』


すぐに扉が開かれると腕を引かれた。
そして広がる赤。目の前にいる彼を見上げれば、その姿に言葉を見失う。
サンタ帽に上下のサンタ服。髭こそ白くないが、その出で立ちは正しくサンタクロースだった。


『あ、あの、、、ローさん、その姿は......』


「今日はトラファルガー・ローじゃねぇ。ローサンタだ。」

どん、と言い張った彼に目を見開く。思わずあたりを見渡してもドッキリの看板は見当たらなかった。


『.......何か悪いものでも食べましたか?』


「んなわけねぇだろ。」

彼の目は真剣だ。

『................』


「.....一応聞くが、お前の欲しいものは?」

『え......』

「欲しいものだ。」

『あ、特にこれと言ったものは....』


ローさんは私の言葉を聞くや溜息をつくと、傍に置いてあった白い袋をゴソゴソと探り始める。


セイレン、あいつはどこだ?


わざわざ私を探してくれたのか。そう考えたら、彼がサンタ服を着ているのも、サンタクロースの存在を知っている理由もどうでも良くなる。


『........あの、』


彼のその姿を見ながら、ふと、ちょっとした欲がむくりと脳裏をかすめた。


「.......なんだ。欲しいもの決まったか?」


『もの、というより.....お願い、というか、』


少しだけ恥ずかしくなる。ボォっと熱くなる頬に片手を当てながら、彼を見上げた。


「.........、言ってみろ。」


コクリと唾を飲み込む。
すうっと息を吸い込んだ。


『........私の名前、呼んでくれませんか?』



「.......名前?」



ローさんの訝しむ表情に頷く。


『私、ローさんに名前を呼ばれたことがない気がするんですけど......』


「.......そうだったか?」


『........そうですよ。いつも、お前、とか....そんな感じで。』


「...........」


『.......せ、セイレンのことは、名前で...呼んでるみたいですし、』


「.............」




私がそう言えば、ローさんは苦笑をこぼす。彼は白い袋を床に置くと指でチョイチョイと私を呼んだ。


『..........っ』


少しの期待を胸に彼に近寄る。ローさんは私の左頬を数度摩ると、耳元に顔を近寄せてきた。


「ーーなんだ、嫉妬か?」


トクリトクリと、心臓が逸る。思わずキュッと瞳を閉じた。そして耳元に手を添えられると。


「ーーーーー。」


彼の言葉を聞く前に補聴器を外された。


『え......ローさん。』


彼はニヤリと口端をあげていた。



「ーーあら、時間切れね」


セイレンの声が聞こえた。
その瞬間、ぐるりと世界が反転する。
ぼやける視界のその先に、彼女が呆れたような顔で私のことを覗き込んでいた。



『........ここは』



「覚えてない?食堂よ。紅茶、飲んだでしょ。」


セイレンは目の前にあるティーカップを指し示す。
そこには冷え切って湯気すら消えたミルクティーが半分以上残っていた。


『......夢?』


「まぁ、そうね。私が貴女にみせた夢。その名もナイト・ドリーム。結構リアルだったんじゃない?」


『.............』


「でも貴女、もう少し迫ってみても良いと思うわよ。せっかくなら、彼ごと貰っちゃえば良かったのに。」


『え......、見てたの?』


「私の能力だもの。せっかくのチャンスだったのに、名前って.......」


『......放っておいてください。』


セイレンの呆れ顔に顔が火照る。怒りよりも、秘めた想いを知られてしまったことに恥ずかしさを感じていた。







「何をしている?」

「あら、船長さん。良いところに。彼女が貴方に用があるそうよ。」


『え......』


「用?」


『..........え、あの』


「ほら、早く言っちゃいなさいよ。焦れったいわね。」


『..........っ』


「......なんだ。」


『私の.......名前、』


「.......お前の、名前?」


『呼んでもらえま、せんか?お前、とかじゃなくて....』


「.............」


『............』


「.............っ」


『...............?』


「.............また、今度だ。」


『........え.......』


「えー、何よそれ。たかが名前くらい、呼んであげたら良いじゃない。」


「黙れ。おれに命令するな。」


「.............ケチな男」


「おい、今から降りるか?」


「まさか、冗談じゃない。」



『...........』






いざ頼まれると二の足を踏むローさん。
メリークリスマス
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