NG1
『……アザラシさん、私のことは良いので、ローさんの上半身を支えててくれますか。』
「………大丈夫なの?」
『………ローさんは大丈夫です。分かる範囲での…計算も何度もしたし、私自身痙攣も起こらなかった。彼が薬を飲んでも最悪の状態にはならないはずです。』
恐らくペンギンさんだろう。机に置いてあるローさんのバイタル等のメモを眺めながら思考をめぐらせる。
「…………。」
けれど、アザラシさんの返事がなかなか返ってこなかったため、不思議に思った私は紙から顔を上げて彼を見遣った。
『……アザラシ、さん?』
アザラシさんの無表情な猫目と視線がぶつかった。
「……君のそういうところ、ほんと気に入らないよ。」
『……え?』
そう、静かに告げられた言葉。
何と返したら良いのかが分からずにまごついていると、ふいに視線を外された。
「けど、それを示すのも、導くのも、僕の役目じゃないからね。―――――これで良い?」
ほとんど眠っている状態に近いローさんを、ベッドの反対側にまわってくれたアザラシさんが支えてくれる。アザラシさんの様子に疑問に思うものの今はそれどころではないと思い直すと、紙を元の場所に置いてから二人の傍によった。
『…ありがとうございます。』
私は彼に頷いてみせると、ベッドの端に片膝をのせて体重をかける。そして手にしていた錠剤を指を使って何とか彼の口の中へと捩りこんだ。
それから、備え付けられている机に置かれているコップをとる。中にはまだ半分ほどの水が残っていた。
『……』
思い浮かんだのは、アダムさんの唇が、口移し…と動いた先程の光景だった。
『………アザラシさん。』
相手はどこの誰かは分からない、けれど、ローさんがこんな苦しい思いをしなければならなくなったのは、間違いなくその人のせいだろう。
「……何。」
『私達の船長が、敵から口移しで薬を飲まされた…なんて、なんだか悔しくないですか?』
「…………………は?」
私はコップに入っている水を一口分、口に含むとローさんの両頬を支える。逸る心を無視して、ローさんの唇に自身の唇を添わせながら少しずつ水を渡そうとしたのだけれど。
『……………』
「………ちょっと。何遊んでるの?」
渡した分の水がローさんの口の中へとは向かわずに、そのまま私と彼の服を濡らすだけに終わった。
『………すみません。』
キスで眠りの魔法が解ける?そんなお伽話は所詮フィクションなのだと、思い知らされた瞬間だった。
アザラシさんの訝し気の視線を感じながら静かに溜息をつく。
正面同士だと、やはり口移しは難しいらしい。ローさんの意識がないから余計に、だ。かと言って、ローさんの顔を上向きにさせてしまうと、構造上…誤嚥、つまり、むせてしまう危険だってある。
それは私の本意ではなかった。
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当時のメモを見ると、初期はどうやらこうなる予定だった 笑 。 本文を書いてるうちに、これはやっぱダメだわーってなって42話の展開に落ち着いた模様。