金色デートに憧れて
今日は第三日曜日。

『〜♪』


今日の僕の服装はシマシマフワフワのセーターワンピ。それに身を包んだ僕は上機嫌に鼻歌を歌いながら髪を梳かしていた。
何を隠そう今日はディーノとお出かけの日である。全てディーノのオゴリで遊びまくると決めていたのだから、機嫌が良くないはずはないのだ。

そこでガチャリと僕の部屋のドアが開く。現れたのはツナだった。


「ヒカリ、ディーノさんが迎えに来たぞ。」

『今行くー!』


僕はくるりと振り向いてニカリと笑った。







「よっ!ヒカリ。今日の服も似合ってんな!」


玄関に行くとすでにディーノがいた。


『ディーノ!あのね、これ僕のお気にいりなんだ!』



僕も軽く挨拶をしてブーツを履く。


「そっか!どうりでな。いつも以上に可愛いぜ。…んじゃヒカリ、そろそろ行くか!」



『ラジャー!』


ツナと奈々ママが見送る中、僕はディーノにエスコートされてロマーリオが運転する車に乗り込んだ。


「んじゃヒカリ、まずどこ行きたい?」


どこでもいいぜ?と聞くディーノに僕は瞳を輝かせた。



『んじゃあね――――』




――――――――…




着いた所は遊園地。休日だからか親子ずれやカップルなどがたくさんいた。



「ボス。俺も一緒でいいのか?嬢ちゃんはボスとデートしたかったんじゃ…」



ロマーリオがボソボソとディーノに耳打ちするが、ディーノは苦笑しながらも頭を振った。




「部下同伴っつーのがヒカリの頼みなんだ。悪ぃな、ロマーリオ。今日一日付き合ってくれ。」




「俺は別に構わねぇが…」


『ディーノ!ロマーリオ!僕、アレ乗りたい!』



ヒカリが指差したのは、小さい子が乗るような可愛いらしいメリーゴーランドだった。ヒカリの性格を見てきたディーノにとっては意外も意外。しかしディーノは一瞬目を丸くしたもののすぐにニカリと笑って頷いた。




「いいぜ!可愛い妹分の仰せの通りに。」




ディーノは自身の胸に手を当てるとヒカリに向けて軽く腰を折る。さながらどこかの執事のようだった。ディーノに手を引かれてヒカリはメリーゴーランドに向う。




『お馬さんパカパカ〜!』



ディーノは上下には動かない馬車に乗り、一匹の一角獸に乗ったヒカリはメリーゴーランドが動き出すとキャッキャッとはしゃぎだす。その微笑ましい光景にディーノも口元を緩めたのだが。


『僕の馬共、存分にひざまずくがいいー!!』


回転しながらも、そんなことを叫ぶヒカリにディーノはガクリと頭を下げた。彼ももこれがヒカリの短所であり長所でもあることは分かっている、いや分かっていたがしかし…少しは可愛い性格してるじゃねぇかっと思った分、ディーノの落胆が激しかったことは確かだ。


その後は主に絶叫系だった。
それだけならまだ良い。機械が運転してくれる分、ディーノたちもまだ楽だった。大変なのはこの後だった。


『次はゴーカートに行こー!ディーノ、僕が運転するから助手席に乗って!』


「いいぜ。ヒカリの運転技術のお手並み拝見ってな。」


『望むところだ!』


後にディーノは後悔することになる。考えが甘かった。ヒカリの運転技術がどうたら…というよりはヒカリ自身の無邪気という名の恐ろしい性格を甘く見ていた。

ちなみにロマーリオはコースの外で見ていてくれるらしい。


ブォォォォンという激しいエンジン音と共にヒカリたちが乗った赤の車が動きだした。風がサワサワと二人の金髪を撫でる。




「ヒカリって意外と運転上手いんだな。」



素直に感心するディーノ。これが間違いだった。


『フッフッフ…ディーノ甘いね。ゲーセンで鍛えた僕の実力はこんなもんじゃないよ!』




「え……お、おいヒカリ!」




ディーノが止めようとした時にはもう遅い。ヒカリはアクセルいっぱい踏み込んだ。途端にますます激しくなるエンジン音とスピード。さっきまで穏やかだった風が、ディーノの顔に痛いほど突き刺さっていた。




『キャッホー!!!きーもちー!』



はしゃぎだすヒカリの無邪気さはこんな場面でなければ、誰もが見惚れるはずだ。しかし、命の危機を感じているディーノにはそんな暇はなかった。なぜなら目の前には急カーブ。
普通に運転し、常識的なスピードならそのカーブは何も怖くはないはずだ。だけど、彼らが乗っている車はその常識を逸脱している。ディーノはザーッと顔を青ざめさせた。



「ヒカリ、前!前っ!!」



『ディーノ、口閉じて。舌噛んじゃうよー?』



その瞬間、ヒカリの目の色が変わり、ハンドルを右に一気にきった。キキキーと鋭い音。
カーブを曲がり終えた後に、ディーノが後ろを振り返るとこの車のタイヤに沿ってコースに煙りが昇っていた。後ろの青い車に乗った親子ずれが顔を青ざめさせている。ディーノは前に向き直るとハハハ…とカラ笑いを漏らした。



「…オレ、ドリフトするゴーカートなんて初めて乗ったぜ。」






―――――――…




大方遊園地の乗り物を乗りつくしたヒカリは、ロマーリオが買ってきてくれたソフトクリームを大人しく食べていた。一方でディーノはクタリとしている。


「ボス、そろそろお化け屋敷に行ったらどうだ?嬢ちゃんのテンションに負けっぱなしはカッコ悪いぜ?」


「そうしたいのは山々だが…」


隣で美味しそうにアイスを頬張るヒカリを見てハァっとため息を零すディーノ。



「ヒカリが造りもののお化けを怖がるとは思えねぇな…。」



とりあえず行くだけ行ってみるかということになり、ヒカリが食べ終わるのを見計らってお化け屋敷へと向かった。途中でクシュリとクシャミをしたヒカリに気をきかせたディーノは自分の上着を脱いで、ヒカリに着せてあげた。


『ありがとディーノ!ねね、次はどこ行くの?』




ワクワクしながら尋ねるヒカリに「行けば分かるぜ。」とディーノは返した。





着いた先はボロボロの屋敷をイメージしたありきたりな所だった。やっぱ、こんな子供騙しじゃヒカリもつまんねぇか…と苦笑しながらも、ディーノはロマーリオに後ろから着いてくるように指示をだした。


「んじゃ、ヒカリ行くぜ。」

『……………』


返事をしないヒカリ。それどころか、一向に動く気配のない様子にディーノは首を傾げたが、ヒカリの手をとって中に入った。
中は思いの外うす暗いようだ。しかし、出てくるお化けが機械や人形でできていることは、誰が見ても明らかだったのでそれほど怖くもなかった。


「……ん?」


突然ヒカリがピタリと再び立ち止まる。手を繋いでいるわけなので、必然的につられてディーノも止まった。


「…ヒカリ?」


お化け屋敷に入ってから、ヒカリは一度も口を聞かないしどうも様子が変だった。極めつけとして、ヒカリの体がプルプル震えている。今や暗闇に目が慣れてきたディーノにとってはそれが明らかだった。


「ヒカリ、お前まさか…」


もし、ディーノが考えていることが本当だとするなら、これほど嬉しいことはない。今まではなんだかんだ言って兄貴分として良いところを見せられなかったディーノの絶好のチャンスだった。


「こういうの…苦手か?」


ディーノが呟いた瞬間、ヒカリの体がビクリと揺らすや―――


『うぐ…う"わぁぁぁん


ヒカリは大粒を瞳から溢れ出させて、ディーノにしがみついてきた。いきなり泣き出したヒカリにディーノはギョッとするが、次の瞬間には我に返ってヒカリを宥め始めた。
すぐにロマーリオと係員がやってきて、ディーノはその場から動かないヒカリを抱き上げると非常口から外に出してもらった。



――――――――…


「まさかヒカリがお化け屋敷苦手だったとはな…」



現在は車内。
ようやく泣き止んだのだが、目を赤くしたヒカリはそっぽを向いてムクレていた。ディーノはその様子を見て苦笑しながらもヒカリの頭を撫でる。ディーノの心の中では、ヒカリは完全に幼い妹のイメージそのものが出来上がっていた。


「ロマーリオ、ここで降ろしてくれ。」


「OK、ボス。」


車からディーノは降りると、ヒカリ側のドアを開けて手を差し延べる。膨れっ面だったヒカリは、ディーノの仕草にキョトンとしていた。



「ここのケーキ、ヒカリのお気に入りなんだってな?オレが奢るからいくらでも買っていいぜ。」

ディーノの言葉に見る見る破綻していくヒカリの顔。明らかに機嫌が良くなっているのがディーノにもわかった。



『僕、レモンケーキとアップルパイとフルーツクレープとマロンミックスデコレーションが食べたい!!』


ヒカリはディーノの手をとって軽やかに車から降りると、ディーノに「早く」と言って店へと促す。店に入ると、知った顔がいた。




『あ、京子ちゃんにハルだ!』




ディーノを引っ張ったままヒカリはテーブルへと向かう。




「あ、ヒカリちゃん。
それに、ディーノさん…でしたよね?こんにちは。…あれ?ヒカリちゃん、目、どうしたの?赤いよ?」




「はひ、本当です!ま、まさかヒカリちゃん誰かにイジメられたんですか!?もしかして、ディーノさんに!?」




「い"。」



キッとディーノを睨めつけるハルに、ディーノはたじろいだ。



ディーノはちらりとヒカリに助けを求めるが我関せずなヒカリは、ディーノにハルを任せたまま京子とケーキを選びに行ってしまったのだ。結局ハルの誤解を解いたのは数分後のことだったが、それからは四人で、まったりとした少し遅いティータイムを楽しむことができた。



――――――――…



「じゃあヒカリ、ツナやリボーンによろしくな。」

『うん!今日はありがと、ディーノ!僕、楽しかった。』


「オレも楽しかったぜ!また遊びに行こうな!」



玄関の前で僕はディーノと別れた。ディーノとのお出かけは、途中怖い思いもしたけどほんとに楽しかった。




『ただいまー!』





手土産にケーキの入った箱を持って玄関のドアを開く。




十代目、オレが間違ってました!





ツナの部屋からは隼人の涙声と武の笑い声が聞こえる。どうやら今日は、リボーンの隼人を玩具にした遊び…もとい隼人の強化特訓の日だったようだ。
今日の夕食では、お土産のチョコレートケーキを食べながら、隼人のことを今日も怖かったと言うツナの愚痴を聞かされることになるのだった。



(ガハハー、ヒカリこのケーキ美味しいんだもんね!)

(謝々!)

(あ、それディーノが買ってくれたんだよ。今度お礼言ってね!)


(へー跳ね馬も中々気が利くじゃない。)


(ってかヒカリ、目が赤くない?何かあったの?)



(…………ツナ、僕にだって言いたくないことの一つや二つや百くらいはあるよ。)



(そんなに!?)





賑やかなのは平和な証拠。

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