星の王子様
「そんなことが可能なのぉぉ!?」
ヒカリが学校から帰ると、玄関先までツナの声が聞こえてきた。そのまま躊躇うことなくツナの部屋へと向かう。
『ツーナ――』
ヒカリがツナの部屋のドアを開けると栗色の髪の毛の小さな男の子が目の前にいた。
『………ツナがちっちゃくなっちゃった?』
「オレこっち!!」
『……あぁ、成る程ー。』
男の子の左側にいたツナは自分を指差してヒカリにむかって叫んだ。ポンッとヒカリは拳で手の平を叩く。
「…………。(成る程ーじゃねぇ…)」
ツナは長年一緒にいたはずのヒカリのまさかの間違いに大分ショックを受けていた。
「初めましてヒカリ姉。僕フゥ太です。」
『……………僕に弟がいたなんて知らなかったよ、ツナ。奈々ママも家光パパもやるぅー!』
「違うから!!変な想像させるなよ、頼むから!」
ヒカリはフゥ太に挨拶を済ませるとツナの部屋に荷物を置いて、そのままベッドに座る。そこで、フゥ太がツナに匿って欲しいというおねだりをボーーっと眺めていた。なんでも、マフィアに追われているらしい。
「さっそく嗅ぎ付けられたみたいだな。」
リボーンの言葉にツナとヒカリは窓の外を覗くと、確かに黒服を着た集団が待ち伏せのようなことをしていた。
『ツナ、どうすんの?』
「どうするって言われても…」
ユウガッタコール〜♪と、突然ヒカリの着ヴォイスが流れる。緊迫とした中では不釣り合いの曲のチョイスにツナはガクリとズッコケた。
『あ、僕の携帯。―――もしもーし。………えー、今いいと……
――すっぐに行きマース!』
暫くしてどこか焦り顔なヒカリはビシリと敬礼をすると携帯を切った。そして、ツナ達に向き直る。
『ゴメン、ツナ、フゥ太。僕、学校に速攻戻んなきゃだから、あと頑張れ!』
「はぁ?待てってヒカリ!家の前には…」
『んじゃ!』
早口でそうまくし立てるとヒカリはツナの制止を聞かずに出て行った。
「ヒカリ姉、行っちゃったね。」
「あーもう!家の前にはマフィアがいるのに!ヒカリは何考えてるんだ?」
ツナは頭を掻きむしる。窓の様子を見ていたリボーンがニッと笑った。
「どうやらアイツは心配ねェみたいだぞ。ツナ、見てみろ。」
ツナとフゥ太が窓際によると、目に入った光景にツナは瞳を丸くした。先程出ていったはずのヒカリが玄関先にいる黒服の男たちに向かってラケットで打ったテニスボールをぶつけている。そのせいで殆どの男が地面で気を失っていたのだった。……残った男は呆然と突っ立っている三人。ツナたちの視線に気づいたヒカリはニヤリと悪戯に笑うと、何やら口パクを残して走っていってしまった。
「"メンドーだから残りはヨロシク"……らしいぞ。良かったなツナ。」
「良くねぇぇ!つーか、なんでヒカリは軽々とマフィア倒しちゃってんのぉぉ?」
「当然だよ、ツナ兄。僕の運動神経ランキングではね、全女マフィアの中でもヒカリ姉は上位なんだ。」
「ヒカリはツナと違って運動神経が抜群にいいからな。」
「悪かったな!運動音痴で!」
――――――――…
僕は急いで並盛中に戻った。向かう先は応接室。応接室の前まで来ると、ガラガラとドアを開けた。
「やぁ、二分遅刻だよヒカリ。」
『僕の――』
「あぁ、君の雑誌ならそこ。」
テーブルの上に置いてあったのは並盛通販雑誌。あーあ、どうやら恭弥にバレてしまった。
『いつから気づいてたの?』
「大分前だよ。」
『ふーーん。』
「………」
『………』
僕と恭弥は互いに無言のまま時間だけが過ぎた。
「………何か言ったらどうなの?」
『……僕、怒られるの好きじゃない。』
「……誰だってそうなんじゃない?」
『………』
「仕方ないから今回は許すけど――――」
『え?じゃあ、これからも風紀委員名義で通販してもいい!?』
「……ワォ、君の頭には反省のハの字もないのかい?」
僕はニヤリと笑って、恭弥が座っているソファーにポスリと座る。そのまま恭弥を見上げた。
『ないよ!それに恭弥名義だとタダなんだからいいじゃん!中学生は金欠なんだよ。あ、そだ!恭弥にはバレンタインには美味しい僕特製スイーツを作ってあげる!ねね、いいでしょ?だからね、通販させて?』
僕の言葉に恭弥は考えるそぶりをする。しばらくして返ってきた返事は"いいよ"の言葉だった。用件を終えたらしい恭弥は目の前にある資料の整理に取り掛かる。僕はそれをボーっと見ていると、不意にフゥ太の顔が思い浮かんだ。
『あ。あとさ、明日小学生くらいの男の子が並中に入るの許して欲しいんだ。』
「部外者は立ち入り禁止のはずだよ。それは君も知ってるはずでしょ?」
恭弥は手を止めずにキッパリと言う。
『その子がツカサちゃんの居場所の鍵を握ってる…と言っても?』
そこでようやく恭弥は手を止めて、僕をじっと見つめた。
「…それは確か?」
『雨じゃなければね。』
「雨?…明日は確か夕方から降るよ。」
『じゃあ、尚更だよ。』
そこで恭弥は大きなため息をはく。
「………今回だけだよ。」
『ありがと、恭弥。』
『明日応接室にフゥ太を連れていくから応接室を物一つない状態にさせておいて』と僕は言うとそのまま恭弥と別れた。
――――――――…
ヒカリが意気揚々と並中を出て並盛公園に立ち寄った時、丁度ツナとリボーンとフゥ太を遠くで見つけた。フゥ太がご機嫌そうにニコニコしている一方でツナは心なしかゲッソリとしている。
「あ、ヒカリ姉ーっ!」
フゥ太はヒカリを見つけると嬉しそうに駆け寄って抱き着いた。
『わわわ、フゥ太、いきなりは危ないよ〜!』
「えへへ、ごめんなさーい。あ!あのねあのね、ツナ兄が凄かったんだよ!僕のランキングを覆してマフィアをやっつけちゃったんだ!こんな経験初めてだよ!だからね、僕、もっとツナ兄をそばで見たいんだ!」
『へー、じゃあフゥ太も居候組の仲間だ!』
「うん!これからよろしくね、ヒカリ姉!」
僕はニコニコ笑顔のフゥ太の頭を撫でながらツナたちが見ていないのを確認するとコソリと呟いた。
『なら、明日並中に来る?ツナのこと、ものすっごく近くで見れるはずだよ?』
「ホント?でも僕が行ってもいいの?」
僕の言葉にフゥ太は瞳をキラキラと輝かせる。
『もちろん。そのかわり…ね、フゥ太にお願いがあるんだ。明日学校に着いたらさ、まず僕と一緒に応接室に行ってランキングをしてもらいたいんだ。
僕、ずっとある人を捜してるの。だからさ、その僕の大事な大事な友達に関するランキングを………できる?』
「もちろんさ!ヒカリ姉はツナ兄の妹。そして僕の姉貴分だもんね!ヒカリ姉が友達と会えるように、僕頑張るよ!」
『ありがとう、フゥ太!僕は君を歓迎するよ!』
(ヒカリ!
お前どこ行ってたんだよ!
こっちは大変だったんだぞ!?)
(えー、僕だっていっぱい敵倒したじゃん!
ちゃんと手伝ったよ。)
(ぐ……それはそうだけどさ…)
(ま、いいや。
それより良かったね、フゥ太に気に入られて!)
(な!?全然良くないーっ!)
子犬一匹追加。