はじまり
どうしてこんなことになっちゃったんだろう…
僕にはわからない
わかんないよ
ねぇ
君は今、どこにいるの?


――――――――…


六月六日の放課後。
僕らはニマニマニヤニヤしながら帰り道を歩いていた。


『ヒカリ!今日は俺ん家に集合な!』


『了解!じゃあ、僕は次の漫画持ってくるね!』




僕はニカリと笑って、ツカサちゃんと一旦別れる。

急いで自分の家に入り、部屋に荷物を乱雑に置くとパッとマジシャンびっくりの早業で氷帝学園中等部の制服から適当な私服に着替えた。



『えーと…』


本棚へとむかうと、そこにずらりと並んでいるのは…参考書、ではなく家庭教師ヒットマンREBORNの漫画。そこから何冊か取り出すと紙袋につめ、携帯と財布を持って家を出た。


今、僕たちには、はまっている漫画がある。
それは、平凡な少年の身に起きた数々の出来事とそれに伴ったとあるマフィアの物語を織り成す世界だ。



これは元々僕の兄貴から紹介されたものであり、一度試しに読んでみれば、とても面白くてすぐにはまった。それから僕がツカサちゃんに紹介すると、予想通り彼女もはまってしまったのだ。


素晴らしいね。漫画って。
偉大だね。
心の底からそう思う。


全ての準備を整えた僕は適当に鼻歌を歌いながら、当初の予定通り跡部邸に向かった。道行く人々からは変なものを見る目で見られていたけれど、僕は気にしなかった。







「芥川瑩お嬢様ですね。お待ちしておりました。お嬢様が自室にて首を長くしておられますよ。」


僕らは幼なじみでもあるから、すぐに執事の人が出迎えてくれた。


「さぁさぁ、私が荷物をお持ちいたしましょう。」


『ありがとー』


執事さんに荷物(漫画入り袋)を預けると、ツカサちゃんの部屋の前まで案内をされる。荷物を一旦受けとった僕は、すぐにお茶をお持ちすると言ってくれた執事さんと部屋の扉の前で別れることになった。



『ツカサちゃーん、遊びに来たよ〜!』



僕はいつものように大きなドアを開けて、部屋に入る。


『ツカサちゃーん?』


視界に入ってきたのは、見慣れたシンプルなお部屋。

特にごちゃごちゃしたものが嫌いな彼女のことだから必要最低限の物しか置いてないけど、僕らにとってはここはとても居心地が良かった。


『おーい、ツカサちゃーーん?』



いつもなら、「遅ェぞ!」と言う声に「ごめんごめん!でも、リボーン持ってきたよ!」と謝る僕。そして「お!偉いな!よしよし」と僕の金髪頭を撫でてくれる、僕の大好きな大好きなツカサちゃんの笑顔があったはずだった。



…だけど今はどこか違う。



『…ツカサ…ちゃん…?』



彼女の高級ベッドには、僕が昨日貸したリボーンの漫画が開いたまま置いてあり、その持ち主は影も形もない。



このベッドは、僕と彼女が二人並んで横になっていても十分な広さだ。僕たちはここでよくお気に入りの漫画や本を読んだりしている。手持ちぶさたになってしまい何気なくベッドに置きっぱなしの漫画を眺めた。

そこで異変を見つけた。




『ん?あれ?…真っ白?』




なぜか。
そのリボーンの漫画のページは真っ白で、背景はおろか人物も吹き出しも、もちろん台詞も何もないメモのような紙きれのページだったからだ。


これ、僕が貸したやつだよね?と不思議に思いながらも前のページをめくると、ちゃんと漫画が書いてある。それは丁度、リボーンの誕生日あたりのストーリーだ。
…もう少し前をめくってみる。
そうすると、今度はランボが登場するところだった。


この漫画はやっぱりおかしい。調べてわかったのは先程のページより前のページは何の異変もないということ。だけど、リボーンの誕生日を過ぎる丁度そのあたりのページから最後までは真っ白だった。




『うーん…?』




僕が首を傾げた瞬間、そのページが光始めた。

『.........え、』


暫くしてその眩しさはさらに増して、目を開けていられないほどの光が僕を包んだ。


『え、何なに?一体何なんだよ!』



これは、最初から決められていたことだろうか、それとも誰かの気まぐれなのだろうか。



ついに僕は意識を手放した。





――――――…

前が真っ暗。そしてどこか狭い。ただわずかに身動きがとれる程度のその状態に、僕は泣きたくなった。体が全く言うことをきかない。なんなんだよ、一体どうしたんだよって僕は自分に苛立った。




ツカサちゃん…





悲しくて、悲しくて、大声で泣き叫びそうになった時僕の右手に暖かい何かが触れた。……よくよく意識を集中してみると、僕はそれを誰かの手であると確信する。何故か、とてもあたたかい。


僕も、その手を握りかえそうとした。

...........!!

けれど、突然僕の右手を握っていた温もりが動き始めてパッと離れてしまう。え、なんで?どうして?その心地好い温もりがなくなったことに焦った僕は、ものすごく泣きたくなった。途端に僕の周りも変化しはじめる。僕の体が、訳の分からない力によってグイグイと下の方へと引っ張られた。



まるで"早く出ていけ"と言われた気分だ。僕は何かに引きずられるように外界へと飛び出した。





がやがやと周りが煩い。



口の中に何かが入っていて気持ち悪い。何もかも嫌になって、とにかく泣き叫んだ。中学生にもなって、なんて周りから奇異な目で見られるのは百も承知。だけど体にべたつく何かがあるのも、周りが煩いのもとにかく気に入らなくて、口も目も体も満足に動かない僕にはどうしようもなかった。







「おめでとうございます。沢田さん。もう一人、元気な女の子ですよ。」








そんな言葉を耳にしながら、僕の意識はすーっと遠退いていったんだ。



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