接触
―――――――…




「……やっぱり…捕まっていたんだ…ヒカリもここに……。」



俺が頭を抱えながらぽつりぽつりと呟いた言葉に、皆気まずそうに俯いていた……ただ一人、リボーンを除いて。



「今更そんなことで落ち込んでても仕方ねーぞ。」


「……。"そんなこと"ってなんだよリボーン。フゥ太だけじゃなくヒカリも、黒曜中の奴らに人質にされちゃってるんだぞ!?心配じゃないのかよ!」



困惑している状態の中、リボーンのヒカリを軽んじる言葉に俺はイラついて怒鳴った。だけど気づいた時にはリボーンの蹴りが俺の頬に直撃していて、俺は「ヘブッ!」と声を出しながら後ろに飛ばされていたんだ。その後すぐに獄寺君と山本の俺を案じる声が聞こえた。



「…シスコンも大概にしろよ。ツナ。人質にされちまった事実は今更変えられねーんだ。あいつらを助けたかったら、自力で取り戻せ。」



リボーンの言葉に思い浮かんだのは当然"無理"の二文字。俺にはあんな人間離れした奴らを倒せる力も自信もない、とヒリヒリ痛む頬を抑えながら思った。……だけどリボーンの言う通りここで俺達が困惑していたってフゥ太やヒカリが帰ってくるわけじゃない。そこまで考えた俺は一度瞼を閉じてから大きく深呼吸をする。それからゆっくりと目を開けると大分気持ちが落ち着いた。そして少し冷静になった俺の頭を過ぎったのは、先程倒したM.M、バーズ、ツインズのこと。……。冷静になって改めて思う。あいつらは誰なんだ?

それをリボーンに尋ねると、脱獄囚が六道骸達の他に四人もいた、ということだった。



「まさか骸達と合流してたとはな。」


「まさかじゃないよ!」


「だって…だって…ディーノが…こいつらは関係ねーなって言ったんだもん。」



唇を尖らせて可愛いこぶるリボーンの姿に俺は口端を引き攣らせる。年相応のその言葉使いはリボーンの赤ちゃんという外見上、問題ない。むしろ似合っていると言ってもいいかもしれない……けど、それは普段から事あるごとに俺で遊ぶリボーンのキャラじゃなくて、キャラを変えてごまかそうとしているのは明白だった。つーか、責任をディーノさんに押し付けようとするなんて。……。ハッとして俺は周りを見渡した。辺りはしーんと鎮まり帰っていて、新たな敵がいる様子はない。




「……さすがにもういないよな?」


「いるわ!」



ビアンキの鋭い声。ビアンキの指す方向に目を向けると、ゆっくり木の陰から出てきたのは―――ランキングブックを抱えた―――六道骸に人質にされていたはずのフゥ太だった。


驚いた、けどそれよりもホッとする気持ちの方が強かった。フゥ太が無事だったことに安心した。



「みんないるからもう大丈夫だぞ。さぁ、一緒に帰ろう。」



俺はフゥ太を安心させるためにそう言いながら一歩を踏み出す。それと共に、フゥ太も一歩下がった。


「来ないでツナ兄。」


俺はフゥ太の言葉に足を止めた。どうして?なんでフゥ太はそんな辛そうな顔をしているんだ?そんなことが浮かんだけれど、次のフゥ太の言葉にその疑問はすぐに頭から吹っ飛んでしまった。



「僕……皆の所には戻れない。
僕……骸さんについていく。」




"さよなら"





フゥ太はそれだけ言うと背後にそびえ立つ森の中へと走り去っていく。



「ちょ、待てよフゥ太!」



獄寺君の言葉が背後から聞こえたけれど、俺はとにかく連れ戻さなきゃならないという気持ちが頭を支配していて、急いでフゥ太を追いかけていった。









――――――――…





「……やっぱりさっきの所、右だったかなぁ?」



ツナはキョロキョロと見渡しながら緑が繁っている森の中をさ迷い歩く。フゥ太の後を追ってきたのはいいものの、その肝心のフゥ太を見つけられずにいた。



「……ん?」



そして、ふと目にしたもの。それは木々の木漏れ日の中、ぽつんと立っている人影。よくよく目を凝らして見れば、それは黒曜中の制服を着た青年だった。黒曜中の制服=敵と認識していたツナは、ヒィィィィと情けない悲鳴を上げて尻餅をつく。ツナの存在に気がついた青年は、カサリカサリと地面に横たわる葉を踏み締めながらゆっくりと近づいてきていた。



「――助けにきてくれたんですね!」



青年が発した言葉は予想外のもので、ツナは思わず動きを止めた。端正な顔ながら前髪で右目を隠しているその青年は、柔らかい微笑みを浮かべている。自分は六道骸に人質にされていたと主張する青年の言葉に、ツナはホッとして強張っていた肩を落とす。目の前にいる青年が、自分達の敵ではないことを知って少し安心した。










「―――へぇ、すごい赤ちゃんだなぁ。まさか戦うとすごく強い、とか?


「ま、まさか……」



柔らかな落ち着いた口調で語りかけてくる青年に、人質救出としてここに来たメンバーの中には女性と赤ん坊がいることを正直に告げたツナ。その言葉が青年の関心をひどく寄せさせたようで、彼はどんどん容赦なく質問をしてくる。会話をしていくうちに次第と核心にせまりつつあることに焦り、返答に困ってしまったツナは、どうにか話題を反らすために雲雀とヒカリについて聞いてみようと試みるが―――



「では、その赤ん坊は間接的に何かをする、と……」



青年の方が早かった。



「え?あ、いや…詳しくは言えないんですけど…」


「なぜ?」


鋭く返される青年の言葉。


「え、と……そ、そういえば、ここに―――」


「今聞いているのは僕です。」



青年の誠実な雰囲気も柔らかな物腰も一瞬にして変化し、ただならぬ雰囲気を敏感に感じとったツナはじりじりと後ずさる。


「――さぁ。」


青年がそう言うや否や、前髪が揺れて先程まで隠されていた右目が露になった。その瞳は……まるで血のような、赤。


青年の左目が青であるから当然右目もその色だろうという予想を大いに裏切り、ツナは驚きと恐怖で後ろにのけ反った。



「また来ます!」




ツナは叫ぶようにそう言い残すと、元来た道を急いで引き返していった。







―――――――…




森を抜け出し、元来た所へ戻れた安心感に浸ると同時にツナの目に入ってきたもの。

それは、後方でボロボロになりながらも木の根本で気を失っている山本、その少し前方で苦しそうにうずくまっている獄寺、そしてその二人を庇うように敵前に立つビアンキの姿だった。


崖下で相対する敵は、もちろんツナにも認識がある。リボーンから写真で見せてもらったアノ―――六道骸。



「こらーーっ!何やってんだーー!」



思わず口から出てきたのは骸を咎める言葉。ツナの声が空間に響き渡ると、睨みあっていた骸とビアンキが同時にツナを見上げた。


そこで我に返ったツナは自身の背中にヒタリと冷や汗が流れるのを感じた。


「(オレ、なんでランボ叱る時みたく、ナチュラルに六道骸叱ってんのーーーっ!?)」


咄嗟だったとは言え、大の大人にに"こらー"はないだろ…とショックを受けてみるも、もう遅い。
骸は無表情のまま、崖下に降りてくるようツナに要求した。


「え……や……あの……その…」


中々降りてこないツナに痺れを切らした骸は女―――つまりビアンキを殺して待つ、と……静かに告げた。




「暴蛇烈覇」



骸が人間の身体を裕に超すであろう大きな鋼球を空中に上げると、それが落ちてくる瞬間ビアンキに向けて打ち放つ。

鋼球――蛇鋼球は表面に彫られた蛇の溝による乱気流をつくり、近くにある土や砂を巻き込みながらビアンキへと迫っていった。


「ビアンキ!」


蛇鋼球を持ち前の運動神経で避けたはずの山本でさえ気流に巻き込まれて倒れたのだ。それに、後ろには柿本千種の毒の後遺症でうずくまっている獄寺もいる。ビアンキはその場から動くことができずに、ただただ迫りくる蛇鋼球を睨みつけていた。



「死ぬ気になるなら、今しかねぇぞ。ツナ。」


リボーンは"暴れてこい"と言いながらツナに死ぬ気弾を撃った。



ズザザザザ


その瞬間、地面に接触するような凄まじい音を出しながら徐々に鋼球の勢いが弱まり、ピタリと動かなくなる。


その様子を肌で感じた骸は、ゆっくりと目を開けた。そして、それは驚きでさらに見開かれる。数秒後に蛇鋼球の餌食になるであろうビアンキの姿を確かに骸は確認した。しかしその後、瞳を閉じていたために一瞬の事を飲み込めずにいたのだ。


"アレを止められたのは未だ誰もいなかった。一体、何が起こったのか"と。



その問いに答えるように、オレンジ色の炎が燃え上がった。
と、同時に「復っ活ーー!」という雄叫びが辺りに響き渡る。


止められた鋼球の先から現れたツナは死ぬ気モードになっていた。

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