お菓子の詰め合わせセット
〔イーピンVSランボ〕
「じゃあ、ツナにヒカリ、後のことよろしくね?」
「わかってるって。」
『奈々ママ、ケーキ!』
すかさず僕はおねだりをすると、奈々ママは「はいはい。」 と笑ってピアノの発表会に出かけていった。
「んじゃ、オレは宿題してるから。」
『うん。がんばー』
「……棒読みで言われても嬉しくねー……とにかく、何かあったら呼んで。」
『はいはーい。』
ツナは二階に上がって宿題をやりに行ってしまった。困ったのは僕で、学校の宿題は既に終わってるから暇で仕方がない。
『ん?』
ふぅーとため息をついた僕の目に止まったのはテーブルの上にあった数本のバナナ。とっさに良い考えが浮かんだ。
『イーピンー、僕と一緒にお菓子づくりしよー?』
大人しく絵本を読んでいたイーピンはコクりと頷いてくれた。さすがは女の子というべきか、お菓子づくりに興味があるらしく快く了承してくれた。二人で手を洗ってから、エプロンを着て(イーピンには僕が小さい頃使っていたエプロンを貸してあげた)さっそくとりかかる。イーピンにむいてもらったバナナを適当に小さく切ってナベに入れて、グラニュー糖と水と共に熱した。
『ねね、イーピン、量を計った小麦粉用意してるからさ、そこのベーキングパウダーと一緒に振って欲しいんだ。零さないでね〜』
イーピンは僕の言葉に了承をするとさっそくとりかかってくれて、僕は僕で、カラメル色になったバナナを木べらで潰す作業に入った。ついでにオーブンも余熱設定にしておく。そこでクイクイっと僕のエプロンを引っ張られた。
「◇#&◆☆」
イーピンはテーブルの上にあるボールを指さす。作業が終わって、次を聞きに来たらしく、白い粉は、綺麗に細かくなっていた。
『イーピン上手!
じゃあじゃあ、このバターを柔らかくなるまで練って、このグラニュー糖っていう砂糖を少しずつ入れてね。白っぽくなるまでして欲しいんだ。』
イーピンに指示を与えた僕は卵を溶く。最後に順番ずつ全部の材料を入れて、生地を完成させると、それをマフィン用の型に入れる。
『イーピン、後は二十五分焼いたら完成!出来上がったら皆でたべよう!』
僕の言葉にイーピンは笑顔で何回も頷いていた。
そのときだ。玄関チャイムの音に僕は首を傾ける。イーピンにお礼として僕のクッキーをあげてから玄関へとむかった。
『あ、隼人に武じゃん!ちわ!』
「…こんにちはっス。」
「よ!ヒカリ、ツナいるか〜?」
僕も武に『よ!』っと返すと階段に向かって大きく息を吸ってツナを呼んだ。
―――…
僕は焼きたてのマフィンと紅茶を持って二階のツナの部屋へとむかった。ギャーギャーと中が何やら騒がしい。
『ツナー、何騒いでんの?』
ドアを開けて部屋に入ると、ランボにキレている隼人と、何やらランボに脅えているイーピンの姿があった。
『あーあ、隼人ったらまたランボ泣いちゃうじゃんか。』
「…いや、アホ牛がオレの――」
話しを聞くとこによると、極度な近眼のイーピンが追いかけてくるランボのことをお化けだと思いこんでこの部屋まで逃げ込んだところ、うっかりランボが隼人の作品?を壊してしまったんだそうだ。面倒くさい、と密かに溜息をはいた。
『まー…とりあえず、マフィンと紅茶持ってきたから休憩しようよ。はい、ランボ。それにイーピンも。』
僕はマフィンをランボとイーピンに一つずつ渡す。二人はとても嬉しそうに受けとってくれた。
『じゃじゃーん!聞いて驚け、見て驚け!これは僕とイーピンの手作りなんだよ!名付けてカラメルバナナマフィン!』
にっこりと笑った僕に驚いて目を丸くしたツナたちだけど、各々嬉しそうに食べてくれる。ま、僕らが愛情こめて作ったんだから当然美味しいはずだ。
「あ、ありがとうヒカリ。」
「ヒカリの手作りお菓子が食べれるなんて…!」
「ははは。獄寺は大袈裟だな!でもヒカリ、これマジで美味いぜ。サンキューな!イーピンも頑張ったな!」
武はニカリと笑って、僕とイーピンの頭を撫でる。この感覚にどこか懐かしい感じがした。
ドガ!!と聞き慣れた不穏な音。振り返ると、リボーンに返り討ちにあったランボの姿が目に映った。
「り、リボーン!!何してるんだよ!」
「コイツがオレのマフィンを食おうとしてたからな。」
「な!(なんつー恐ろしいことを!)こ、こら!ランボ、ダメじゃないか!自分のはさっき食べただろ?」
「う……ガ・マ・……うわぁぁぁん!!」
よほど痛かったのか、ランボは泣きながら十年バズーカーを打つ。ドガーンとお馴染みの爆発音と煙りが立ち上った。
「…やれやれ、どうやらまたしても十年前に来てしまったようだ…」
「あ、あれ?ここは?」
大人になったイケメンランボと一緒に現れたのは、出前の格好をしている可愛い女の子。
「大人ランボに…え?誰ェー?」
ツナの叫びももっともだった。その後、十年後のイーピンだと判明したのだがツナたちの驚きように僕は密かに笑う。ツナ達はイーピンのことを男の子だとずっと勘違いしていたらしい。とりあえず、台所に置いてきた余ったマフィンを大人ランボとイーピンに振る舞うことにした。
「うわ…ヒカリさんのマフィン!暫く食べてなかったんで嬉しいです!」
「まさか、もう一度このヒカリさん特製マフィンが食べられるなんて…」
イーピンはすごく懐かしそうに、ランボなんかは泣きながらマフィンを食べていた。それから5分たって二人は戻っていった。
〇後日談〇
「なぁ、ヒカリ?あのマフィンの作り方って母さんに聞いたのか?」
僕は携帯を弄っていた顔をあげてツナを見つめる。
『んーん。あれはその場で考えた僕のオリジナルだよ』
「え!?」
『ツナ、何驚いてんの?奈々ママもそうだけど、僕の友達はオリジナルで美味しい料理作れるよ?僕は料理は好きじゃないからあまり作れないけど。』
ちょっと寂しそうに笑ったヒカリに俺は首を傾げたけど、やっぱりどこかすごい妹にショックを受けた。
.
〔犯罪三兄弟〕
「ごめんなさい。今日夕飯ないのよ。」
奈々ママの宣告に、!!と声には出さないけど家中に響き渡る心の声。もちろん僕も例にもれることなく、ショックを受けた一人に入っている。なんでも奈々ママの財布がすられたらしい。
『(うーん…)』
とりあえずリボーン達の、そいつらを殺る気満々な様子に慌てるツナが面白い。さすがにマズイと思ったのか、ツナが買い置きをしていたカップラーメンを振る舞うことで落ち着かせたらしい。
「働かざるもの、食うべからずだぞ、ツナ。」
明日は皆で奈々ママの護衛をするらしいけど、僕は明日恭弥に呼ばれていたから辞退した。
―――――――…
『グッモーニン恭弥!』
僕は応接室に入るやいなや、ガバッと恭弥に抱き着くと、恭弥はそれに眉を潜めて溜息をはきながら僕を軽く引きはがす。仕方ないとばかりに恭弥が座っていた皮張りの黒ソファーに僕も座った。
「いい加減、その抱き着く癖直してくれない?」
『いいじゃん、別に減るもんじゃないし。』
「君、僕が群れるの嫌いなの知ってるでしょ?…ストレスが無駄に溜まるんだけど。」
『ストレスは禿のもと。恭弥だってまだ若いのに……残念だ。育毛剤買ってこようか?』
「………そんなに咬み殺されたい?」
『アハ、冗談ですー。それにどうせなら草壁をサンドバックにしてよ。』
ニコリと笑いながら言った僕の言葉に丁度お茶とケーキを持ってきてくれた草壁がビクリと肩を揺らす。あまりにもビクついている草壁が面白くてアハハと笑う僕に、恭弥はニヤリと口角を上げた。
「…僕のストレスが溜まったら、瑩、君をサンドバックにするよ。それが物事の道理ってもんじゃないのかい?」
『…ヤダよ。そもそも武力行使の不良の頂点に道理なんて語られたくないね。第一、僕痛いのキライって言ったじゃん。忘れたの?
僕こーんなに、か弱いのにさ。僕を虐めて楽しいか、楽しいのか?』
「か弱い?どの口がその言葉を言えるの。大体、草壁で遊んで楽しんでいるのは君の方でしょ。」
恭弥の言葉はもっともだ。けれど、悔しいからプイっとそっぽをむいてやると、恭弥は隣で深い溜息をはいていた。すでに僕に説教をするのを諦めたのか、薄くて大きな封筒を僕の頭に乗せてきた。
「君に頼まれていた今月分の調査結果だよ。」
恭弥の言葉に、僕は急いで封筒からガサガサと資料を取り出す。
「君が言っていた、司という人物は今月も並盛にはいなかった。」
資料を簡単に要約すると恭弥が言った通りの内容で、僕はガクリと肩を落とす。
僕はお礼を言って、そのまま家路についた。
(もちろんケーキは完食したさ。)
―――――――…
家に帰ると、ツナやリボーンたちは帰っていたけど、奈々ママはどこかに出かけていた。だから僕は真っ直ぐ自分の部屋に戻る。ツカサちゃんが並盛にいない…その事実が僕には重かった。僕の沈んだ気持ちを余所に階下から騒がしい声や音。それがますます僕を苛立たせた。
階段をズンズンと降りるとなぜか都合よくバズーカ(十年バズーカとはちょっと違うから、おそらく本物だと推測)が置いてあった。そして玄関には、焦るツナと怯えるセールスマン?と銃を発砲したリボーン。
僕の中に生まれた好奇心。これはもうやることは一つしかないよね。というより、今やらなきゃ僕が僕のキャラを見失うと思う。きっとそうだ。そうに違いない。
「あ、ヒカリ…。って、お前、何物騒なもん持ってんだよ!!」
ツナの言葉に笑う。僕の笑顔になぜかツナは顔を青くさせていた。
『僕ね、一度でいいから…思いっきり撃ってみたかったんだよね…バズーカ。』
笑いながらバズーカをセットする僕に腰を抜かしているセールスマン。ツナは巻き込まれないようにちゃっかり脇にどいてくれていた。
『カウントー、十秒前ー…十・九…三…』
「えぇぇぇ!?ヒカリカウント飛ばしすぎだろ!?」
ツナの言葉に、だって面倒だもんっと返してスイッチを押すと、ドガァァァンと素晴らしく清々しい音がした。おかげで玄関の扉はボロボロ。惜しくもセールスマンを仕留めることはできなかったけど、バズーカの発射で彼の髪は無惨にも坊主になって気を失っていた。外では、僕のバズーカに巻き込まれた二人の男ものびている。
後に、このセールスマンの鞄を漁ったところ、奈々ママの財布が出てきたことによって、三人兄弟は御用となった。
「つーか、ヒカリ!家の中でバズーカ撃つなよ!」
『バズーカが僕にどうしても撃ってほしいって言うから。』
「どんな言い訳っ!?」
「やはりな。ヒカリ、お前のその性格はマフィアにピッタリだ。ツナよかったな。頼もしいファミリーがいて。」
「勝手に決めるな!」
ツナの声が家中に響いていた。