幕開け
「――――じゃあ、ほたるちゃん?これは?」
『“だ”』
「そうそう!!じゃあ… これは?」
『‘い’』
「うんうん、いいねいいね!!じゃあこれは…?これ言うときにちょっと首傾けるんだよ?」
『“て”?』
純粋にコテンと首を傾ける けがれなき幼女。彼女だからこそその可愛らしさが引き立てられる。
「「って何やってンだ、てめェはよッッ!!」」
「ぐふぉあッ!!」
僕と土方さんの蹴りで、銀さんは鼻血を出しながら宙を舞った。
「つーか、アンタ子供に何やらせてんですか!?」
「『だっこして!』って台詞がッ、なぁーんで『抱いて!』に変換されてんだよッ!」
と次いで僕と土方さんは叫ぶ。
「あら?同じようなものじゃないの?」
姉上がにこやかに言った。
「・・・お妙さん、じゃあ近藤さんに“抱いて”って言うのと“抱っこして”って言うのと、どっちが言いやすいですか?」
「・・・・・」
「え。お、おおお妙さん!?俺が言ったんじゃないですよ。今のは総ご-----」
ウギヤややああああああああああああ!!!
近藤さんが姉上に始末されるのを見ながら銀さんはゆっくりと起き上がる。それから、さも面倒くさそうに口を開いた。
「・・・つーかさ、なんでてめェーらが当然のようにいんの?不法侵入で警察呼ぶぞコラ。」
「旦那ー。俺たちが警察でさァ。」
沖田さんの声に銀さんは大きなため息をはいた。
「真撰組も落ちぶれたもんだな。・・・ここにもう一人きな臭い・・・つーかマヨ臭い奴がいんだろ?早くしょっぴかなくていいのか?」
「オイ万事屋。マヨ臭いってなんだ!ってめェーこそ中年の匂いがプンプンじゃねェーのか?つーか、なんで俺が逮捕されんだよ!」
それを聞いた銀さんと沖田さんが同時に口を開いた。
「「あーー職業詐称」」
「上等だコラァアア!!!てめェら、まとめて叩き斬ってやる!!!おもてにでやがれェエエ!!!」
・・・駄目だ。これじゃあ全然話が進まない。
姉上も近藤さんを“あら大変、こんなところに生ゴミが落ちてるわ!ゴミ収集車に入れてこなくちゃ”って言って帰ちゃったし。
「・・・それより真撰組の皆さんが揃いも揃ってなんで万事屋に?」
僕の声でようやく喧嘩がおさまった。土方さんはコホンと咳払いすると沖田さんと共に向かい側のソファーに座る。
「オイ、万事屋。チャイナはいねェーのか?」
「あ?神楽なら定春の散歩だが・・・・・・え!なになに、おたく神楽に用があんの?もしかして告白とか?いやー、まさかてめェにロリコン趣味があるとわなァ。人は見かけによらねェーな。」
「マジですかィ、土方さん。それは知りやせんでした。さっそく屯所のみんなに知らせねェーと。」
沖田さんは懐から携帯を取り出そうとしている。土方さんは口元をヒクつかせながら沖田さんと同じように自身の懐に手を入れた・・・だけど出てきたのは携帯ではなく茶封筒。
「なんですか?それ。」
僕の質問には答えないで、土方さんはガサガサと中身を取り出す。
その間、沖田さんも黙ってその様子を見ていた。取り出されたのは、何の変哲もない紙のようなもの。土方さんはそれを銀さんに差し出す。銀さんは訝しげにそれを受け取るとすぐにガサガサと読み始めた。
「・・・・」
銀さんの目が紙の字を追うごとに開かれていく。その紙の内容がどんな内容なのか僕もすごく気になっていた。
「ソイツは今日屯所に届いたモンでさァ。」
「・・・銀さん、いったいそれには何が書いてあるんですか?」
沖田さんの声に便乗するように僕は口を開く。
銀さんは一度僕に視線を向けた後、沖田さんに目を向けた。
「総一郎君、悪いんだけどさァー。・・・あっちでほたるを寝かせてくんねェ?お昼寝の時間だしな。」
「旦那ー、俺総悟でさァ。しかもアンタ全然悪いなんて思ってやせんでしょ?・・・ま、いいや。貸し一つってことで。」
そう言うと沖田さんは、ほたるちゃんを抱きかかえて寝室に連れていった。
「あーあ、万事屋ァ。アイツの貸しは高ェーぜ?」
「大丈夫大丈夫。ソレ返すのは多串くんだから。」
「誰が多串だ!」
土方さんはたばこを取り出すと火をつけて吸い始める。銀さんは立ち上がって冷蔵庫にむかうと、そこからプリンを取り出してきた。再びソファーに座ると、蓋を開けてパクパク食べ始める。土方さんはそれを見て少し眉を潜めた。
「・・・んで、てめェーらは何しに来たんだよ。」
「あ?だからその紙を「違ェ。」・・・!」
銀さんの瞳が鋭くなった意味がわからない。僕は銀さんが持っている手紙をどうにか受け取ることに成功した。
「えーと何々・・・」
<<親愛なる真撰組諸君。えー突然のお手紙驚かれたことと思います。いかがお過ごしですかね。季節の変わり目は体調を崩しやすいので・・>>
「ーーーってこれ、ただの手紙じゃないですか?なんで僕らなんかに?」
僕は一旦顔を上げると、土方さんが顎で先を促した。僕は首を傾げながらも続きを読む。
<<崩しやすいので、十分に気をつけてください。ってゆーか、前置きこんなもんで良くね?あーもーダリィ、なんか面倒っすわ。だいたいなんで俺がこんなもん書かねェーとなんねェんだよ・・・>>
「・・・土方さん、なんかこの人いきなり態度でかくなってません?しかも思いっきり自分の心境カミング・アウトしっちゃってるし。」
「・・・内容は胸くそ悪ィーが、続きを読め。話はそれからだ。」
「・・・わかりました。」
そう言って続きを読む。
<<・・・つーか今時手紙はないだろ手紙は。文通なんかしている奴の顔が見てェわ(笑)・・>>
「って、文通舐めんなコラァァアアアア!!!しかも(笑)ってなんか腹立つ!!ってゆーかこの人に手紙書く資格なんてねェーよ!!!」
僕は散々突っ込んだ後、これじゃあ埒あかないので気を取り直して先を進めた。
<<・・・君たちも知ってると思うが、最近幼児連続誘拐が多発しているようだね。・・・実を言うと、その犯人は私たちだ。おっと、妙な探りをいれるのは止め給え。こちらには何十人の人質がいるのだからな。率直に言う。君たちが預かっていたガキを渡せ。チャイドルだかユニットだかなんだか知らないが、この間寺門通に抱かれていたガキだ。君たちは、そのガキの真の価値をしらない。・・・つまり宝の持ち腐れだ。もし、そのガキをこちらに渡すならば今までに攫ったガキどもを解放しよう。だが、断るならば・・・わかってるな?君たちの賢明な判断を期待している。日時は五日後。場所は地図を同封する。・・・P.S.あそこでグー出しとけばなー、なんでパーなんて出したんだろ俺。一時間前の俺を今すぐ殴りたい。>>
手紙はそこで終わっていた。
「・・・真剣さの欠片もない声明文ですけど、これ悪戯じゃないんですか?」
だけど、僕の言葉に帰ってきたのはまぎれもなく〔NO〕だった。