依頼
「マスコミには名前を控えていたガキの名前まで、こいつらが地図と共に寄こしたリストに書いてあった。俺たちが掴んでいなかったガキの名も。・・・ほぼこいつらが誘拐犯で間違いはないだろう。」


土方さんは、タバコをフーっと吐くと携帯灰皿にグイグイ押し付けた。



「・・・だからなんだ?てめェーらは、ほたるをこいつ等に渡すつもりか?」





「・・・安心しろ。万事屋。さっきも言った通り、今日はてめェーらにコイツを見せにきただけだ。」




「今日は、ねェー・・・」



銀さんはスゥーと目を細めた。




「実は誘拐されたガキの中に、幕府の役人のせがれも含まれているんでさァ。」

「「「!!」」」


僕たちは急いで沖田さんを見た。沖田さんは、腕組をしながら壁によりかかっている。僕たちの視線に気づいた沖田さんは、寄りかかるのを止めて再び土方さんの隣に座った。


「おっと、ほたるはちゃんと寝かせましたぜ?・・・土方暗殺計画を読み聞かせたら、それはもうぐっすりでさァ。こりゃあ、将来有望ですぜ?」




「いったいなんのだ、なんの!!・・・ったく、てめェーはとことんシリアスをぶち壊すのが好きだな。」




「なに言ってんですか?・・・俺がぶち壊したいのは、土方さんの心臓でさァ。」




「死ねってか?俺に死ねってか!?」



「旦那ァー、さっきも言った通り幕府のガキも攫われてやす。しかも、俺たちは幕府側。・・・いずれこの手紙も上に知られちまいやす。」




「総悟!てめっ無視してんじゃねェよ!ったく。おい、万事屋ァ。・・・そうなるとな、上は確実に俺たちに命令してくるはずだ。要求に従いせがれを取り戻せってな。しかもタチ悪ィことに、ほたるの顔はテレビに流れちまってやがる。代わりはきかねェ。そうなった場合悪いが俺たちは、例え要求の対象がほたるだろうが誰だろうが、命令に従うぜ?それだけは覚悟しとけ。・・・今日はそれを言いにきた。」




そう言い切ると、土方さんは立ち上がって万事屋を出ていった。それを見た後、遅れて沖田さんも腰をあげる。


「・・・旦那ァ、土方さんはあー言ってやしたが、近藤さんももちろん俺たちも犯人たちにそうむざむざほたるを渡すつもりはねェでさァ。ただ、犯人が誰だか分からない今、ほたるがいつ狙われてもおかしくねェーです。旦那、残り五日間俺たちは犯人探しをしやすが、旦那たちも気をつけてくだせェー。」


あぁ、と銀さんは頷いた。


「あ、そうそうこの手紙に書いてありやしたほたるの真の価値のことなんですが、なんのことか旦那たちは知ってやすか?」




「・・・イヤ、知らねェ。」


「そうですか。いま山崎に調べさせてますが、未だ謎のままでねェ。俺たちも手を焼いてるんでさァ。ま、とにかく旦那たちも、ほたるに聞いてみてくだせェー。んじゃ、俺はこの辺で。」


そう言い残して沖田さんも万事屋を出ていった。万事屋には僕と銀さんだけ。




「ったくよォー。迷子の次は誘拐だァ?
随分とまァトラブルメーカーじゃねェーか。ほたるは確かに将来有望だろうよ、トラブル製造マッシーン会社の!!」


「あはは、確かに。・・・で、銀さん。これからどうします?」


「あ?どうするもなにも、俺はほたるをそう易々と渡さねェよ。誘拐犯にもアイツらにもな。だいたい、幕府のケガレだかエバリだかなんだか知ったこっちゃねェんだよ。俺たちに関係ねェ。」




「・・・銀さん、せがれです。」




「まァなんにせよ、こんなところでほたるを手放すつもりなら、こちとらハナっから背負いこまねェさ。てめェーの大事なモンぐらいてめェーで守る。」




そうだ。



姉上が攫われた時も、神楽ちゃんが捕まった時も、結局銀さんを先頭として僕たち皆が力を合わせて切り抜けてきたじゃないか。・・・今回もきっと大丈夫に違いないはずだ。




「って銀さん何やってんですか?」



「ん?いやーなんかダニがいるみたいでさ。最近股間がすっげーかゆいのなんのって・・・」











・・・あー、やっぱダメかもしれない。





―――――…




あの後しばらくして神楽ちゃんと定春が散歩から帰ってきた。



一人の依頼人をつれて。



「・・・というわけで、お願いします。」




「いやいや、だから何がそういうわけ?・・・つーか、バァさんあんた誰!?」





にっこりしたお婆さんにむかって、銀さんが思わず突っ込む。




「私は水野菊。・・・ここは万事屋さんなのよねぇ?」



どこかおっとりとした雰囲気を醸し出している。たぶん六十才くらいかな?



「あーまァな、金さえもらえりゃ俺たちはなんだってやってやるよ。」


「・・・そうかい。それなら安心だねぇ。」




「ババァ、てめェーの死に水をとれなんて言うんじゃねェーだろうな。」


「こ、こらこらこら!神楽ちゃん、そんな縁起でもない!!」


「うっせーよ眼鏡!!ろくにキャラクターグッズも発売されてないくせに!」

「ぐっ!!・・・気にしてたのに。はっ!すみません。水野さん、それで依頼というのは・・・?」



僕は急いで水野さんに謝った。
水野さんは首を振りながらゆっくりと口を開く。


「ペットをね・・・」



「「「は!?」」」



「ペット・・・そうだねぇ。
あの犬の半分の大きさでいいから子犬を買ってきてもらえるかい?もちろんお金は払います。」





水野さんは定春を指差す。銀さんはそれを不思議に思ったのか首をかしげた。




「バァさんよォー。そんなら自分で行った方がいいんじゃねーの?いいのか?俺たちの趣味に合わせちまって。」


「・・・・・・なぁに、私が飼うわけじゃないからねぇ。お願いしますよ。万事屋さん。」




そう言うと水野さんは深々とお辞儀をする。僕たち三人はお互いに顔を合わせると、銀さんはしょーがねェとばかりにため息をはいた。





「バァさんよォ、顔をあげてくれや。俺たちは万事屋だぜ?そんな頭をさげなくても、ペットぐれェ買ってきてやるよ。・・・ただし、世話までは面倒見切れねェぜ?うちだってでっけェー犬飼ってんだからよ。」



銀さんの言葉に水野さんは頭をあげると、嬉しそうに微笑んだ。



「ありがとうございます。これは犬の代金と報酬ーーーー・・・それと・・・これは届け先の地図です。そこに・・・そうね、三日・・・三日後に連れてきてくださいませんか?」




そう言いながら、銀さんはお金と地図を受け取った。



「・・・三日後、ねェー。ん?・・・歌舞伎町三丁目の饅頭屋?バァさん、もしかしてアンタ・・・」



銀さんが何か言いかけた瞬間スゥーと寝室の襖が開いた。


「あらまァー可愛らしいお嬢さんねぇ。」


水野さんの声に僕たちが振り返ると、ほたるちゃんが眠そうな目を左手でこすりながらも土方さんたちに買ってもらった木刀を右手で持っていた。





「あ、銀ちゃーん!ほたるがおっきしたネ。ほたるー!こっち来るアル。私の膝に乗るヨロシ!」



「ったく、どうしてこう俺の周りいる女はこうも逞しいのかねェー?普通ここは右手に枕ァーとか熊のぬいぐるみィーとか持ってるもんじゃねェの?何?木刀?誰だよ、こんな教育したのは!?」


「いや、そもそもここにぬいぐるみなんてないですから。ほたるちゃん、ちょっとの間大人しくしててね。・・・えーとすみませんね。水野さん。とにかく依頼はお受けします・・・でいいですよね?銀さん。」


「あァ。」




僕と銀さんが口を開いた瞬間、それまでボーっと立っていたほたるちゃんが神楽ちゃんの脇を通り過ぎて水野さんの隣までペタペタ歩みよった。



僕らはただ呆然とそれを見守る。ほたるちゃんは床にコトリと木刀を置くと、そのまま右手を水野さんに触れようとする。その時、水野さんはそれをやんわり避けるように脇にずれると苦笑をもらした。それを、ほたるちゃんは不満そうに見つめる。




「ありがとうねェ、お嬢ちゃん。気持ちだけ受け取るわ。」


「・・・?こ、こらこらほたるちゃん!?大人しくしなくちゃダメじゃないか。・・・神楽ちゃん、お願い。」




「アイアイさァー、眼鏡三等兵。」


「・・・三等兵って僕?つーか身分低っ!!ってそんなこと言ってる場合じゃなかった。えーと、すみません水野さん。」



水野さんとほたるちゃんのやりとりに疑問を感じたけど、とにかく僕はほたるちゃんを神楽ちゃんに預けた。



「いえいえ、とても優しいお嬢さんです。・・・この子を大事に育ててくださいね。」




水野さんは穏やかな微笑みをほたるちゃんに向けていた。



「それでは三日後、お待ちしております。」


そう言うと水野さんは一礼して出ていった。









「なァー、オマエ。あのばァさんに何しようとしたの?」


銀さんは、神楽ちゃんの膝に座っていたほたるちゃんを抱き上げる。ほたるちゃんは銀さんを一度見た後、プイっとソッポをむいた。



「え?何、その態度?反抗期?第一次反抗期???かるーく銀さんショックなんですけど!!」



「いや、まさか!いくらなんでもまだ早いですよ!!」


「ふ、新八甘いアル。女は男より精神年齢が三歳も上だって言われているのを知らないネ?・・・この私を見るがイイ!!」



「「・・・・・」」


「・・・あー思い出した、確かほたるちゃんのプリン、銀さん食べてましたよね?」



「エ、エェー!?し、新八くん、君何言っちゃってるの?みんなのヒーローである銀さんが、そんな意地汚いことするわけなっいじゃーん!!??なァー、ほたる?」




銀さんは汗をだらだら流しながら、僕をばしばし叩いた。銀さんの様子を見ていたほたるちゃんは、クイクイっと銀さんの着物を指差す。そこには・・・べっとりとついたプリンのキャラメル。さらにゴミ箱を指差すほたるちゃん。そこには・・・プリンのカップ。



「もう言い逃れできませんね、銀さん?」

「大人はみんな汚いアル。大人なんて嫌いネ!」


ほたるちゃんは再びプイっとソッポをむいた。僕と神楽ちゃんはじィっと軽蔑の目を銀さんにむける。


「な、な、なんだよてめェーらその目は!!わーーったよ!三日後、依頼が終わったらほたるに苺パフェ奢ってやるよ!それで満足かコノヤロー!」




「いや、銀さんが威張って言えることじゃないでしょ!?」




「でも新八、ほたるが・・・」



「「ん?」」




見ると、ほたるちゃんはさっきの機嫌の悪さはどこにいったのかすでにニコニコ笑顔に戻っていた。



「「……(意外と現金?)」」

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