馴れ合い
―――――――…
そこには布団がすでに敷いてある。
「お、新八にしちゃー、気ィきくじゃねェーの。」
ほたるをそこに降ろすと、予想通り先程まで流れていた電気がおさまった。それを見計らってその隣に銀時も座る。
「おーい、ほたるちゃんよー………キミを育ててくれた父ちゃん母ちゃんは?一応、覚えてたりするわけ?」
フルフルとほたるは首をふる。
「……帰っとこは?」
一瞬迷ったようだが、ほたるはもう一度フルフル首をふった。
「……そんな年で家出かー?随分とマセてるじゃねーか。…まーとりあえず、今日はここで寝るとして、明日は税金どろぼー…あー…アイツらは管轄外か?んじゃー…同心…警察につれていくか。」
銀時がちらりとほたるを見ながら呟くと、ほたるは不満そうな表情を見せる。
「…何だよ、その顔。お前警察嫌なの?」
『…ィャー。』
「でもなーお前、俺や新八が触れっと嫌なんだろ?あーも、毎回電気流されっと、ここには住めねェーぞ?」
銀時がガシガシ自分の頭をかいていると、突然ほたるがトタトタと歩いて抱きついてきた。…それも電気なしで。
なんだやれば出来るじゃねーか、と銀時は口端を上げた。
「お前、嫌じゃなかったのか?もービリビリしてねェけど。」
一回ほたるをそっと離してから顔を覗きこむと、少し涙目の幼児が一生懸命にコクリコクリと頷いていた。あまりにも必死なその様子に、銀時は少し笑うとほたるに軽めの毛布を被せて立ち上がる。
「んじゃ、前向きに検討するとして…俺、ちょっと風呂入ってくっから、先に寝てろ。」
銀時は不安げに見あげてくるほたるの頭を撫でておやすみと囁くと、おやすみと小さく返されるたどたどしい言葉。銀時はそれを確認すると立ち上がって着替えを持った。
……はずだった。そこまでは良かった。だが、いざ風呂に向かおうとしていた銀時の足元に再びほたるが抱きついてきたのだった。さっき、おやすみしたじゃねーかと銀時は内心ツッコミながらも苦笑する。
「……おいおい、ちょっと風呂に行くだけだぜ?」
その瞬間、ほたるの握る手がグイっと強まる。つまりは行くな、ということ。
意図を読み取った銀時はため息をはくと、もはや癖である自身の頭をガシガシ掻く。
「風呂…明日の朝入っか…」
こうなった以上、どうすることもできない。そう判断した銀時はぽつりと呟くと、ほたるは言葉を理解したのか、ピョンピョンと跳びはねて身体全体で喜びを表していた。
「…………」
なーんでガキってこんなに素直なんだか…イヤ、コイツが特別素直なのか?馴れれば人懐っこい気がしなくもねーし。俺のガキの頃とは全然違う気がするのは俺だけ?と、自身の幼少期をふりかえりながら銀時はもう一度苦笑する。
「ーーーー仕方ねぇな、」
毛布を被ったまま抱きついてきていたほたるを銀時はベリッとひきはがし、それごと抱きあげる。敷いてある布団に戻ってすぐにほたるを降ろすと、銀時は先に潜りこんだ。ほたるもいそいそと隣に入ってくる。
母性本能ならぬ父性本能だろうか。その必死な様子がどこか可愛いらしく世の中の父ちゃんはこんな羨ましい想いをしてんのか?と銀時は一人ごちた。
『……』
ほたるにとって枕が高いのか、なんとも寝苦しそうだったこともあり、銀時の腕で腕枕をしてやる。すると同時にほたるからはニコニコと濁りのない微笑みを惜し気もなく受けたため、それを直で見てしまった銀時の口元がどうしようもなく緩んでしまったのは、もはや生理現象なのかもしれない。
「…」
……いやいや、単なる父性本能だからね。断じて父性本能。決して俺はロリコンなんかじゃねぇ!とその頭の中で弁解を繰り返す銀時だった。
「……と、とにかくだ!ガキはもう眠る時間だ。」
銀時は焦る気持ちをごまかし、かつほたるが寝やすいように規則的に肩を叩いてやると、案の定うとうと船を漕ぎはじめている。
「んじゃ、おやすみな。」
『オヤス…ミ』
そう言ってすぐにほたるは寝息をたてた。銀時はおやすみ三秒とはまさにこのことだな、と声をおし殺して笑う。
「………に、しても。」
本当にこいつが俺のガキか?と、先程会ってきた桂小太郎......ヅラから聞かされた話しの内容に眉間に皺を寄せる。手紙の筆跡は、間違いなくアイツのものだった。手紙の主がすぐに判明したため、先程事情を聞きに行くという名の殴り込みに行ったのだけれど、ヅラはどこ吹く風といった態度だったため張っ倒してきたところだった。
「........戦で垂れ流した俺の血で出来たガキ、ね。」
それから数分後、眠気の限界がきたのか銀時も深く考えることなく眠りについた。
―――――――…
―――…
「おはようございまーす。」
キャッキャッと騒ぐ女の子の声。ほたるちゃんだ。
「…」
朝、僕が万事屋に来たときには定春とほたるちゃんが遊んでいる姿が真っ先に見えた。
すごいな、彼女。
きちんと定春を手なずけているようだし、定春も定春で噛み付いたりすることなく大人しくしているようだった。
「おー…新八か?」
洗面所のドアが開いて現れた銀さんに、僕は首を傾ける。
「あれ。銀さん今お風呂に入ったんですか?」
銀さんの髪が濡れていて、落ちてくる水分をタオルでガシガシ乾かしていた。
「あー…まぁな。それよりほたる、新八が来たぞ。」
銀さんがそう言うと定春と遊んでいたはずのほたるちゃんは僕を見て、トタトタとかけてきた。と、同時にほたるちゃんが僕の手に触れようとする。
って、電流がァァァ!!
僕は次にくる痛みに耐えるようにギュッと目をつむった。
「おーい、びびり眼鏡くん。目ェーあけてみろや。ほたる心配そーな顔してっぞ。」
銀さんの声で目をあけると、ほたるちゃんが僕の手を掴んでいるのが見えるが…確かに電気は流れていない。
「銀さん…これって!」
「まー…少なくとも俺らは認めてもらえたっつーことなんじゃねェーの?」
バタバタバタ…と音をたてて神楽ちゃんが居間から飛び出してきた。
「新八!ほたるも今日からここに住むネ!!」
は?と、理解するのに一拍。その後すぐに僕の中に衝撃が走ったのはもう言うまでもない。
「なにイイィ!!!?」
どういうことですか?と銀さんを見ると、銀さんも苦笑している。
「ま、そういうこった。テメェーも男なら腹くくれや。」
「………」
なんだか…万事屋に一波乱きそうな気がしたのは、僕だけでしょうか?
2008.8.24