皆、人生の迷子
えーと…皆さん、こんにちは。

新八です。




一話前で知った通り、僕たち万事屋にはほたるちゃんという小さな仲間が加わりました。


それで僕たちはさっそくほたるちゃんと、この歌舞伎町の散歩兼夕飯の買い物をしようとしているのですが…


「銀ちゃーーん、新八、大変ネ。」


「…ンアーーー?」


「どうしたの?神楽ちゃん。」


「ほたるいなくなったアル。」


見ると確かに神楽ちゃんの手とつながっているはずのほたるちゃんの紅葉のようなちっちゃな手が見当たらない。


「「……何ィィィィイィ!!!」」




「オイ、神楽!『ほたるの面倒は代理マミー神楽に任せるネ』って意気揚揚と言ってたじゃねェーか!」




「ほたるだって時には風船のようにふわーっといなくなりたい時があるネ。マミーはそういうキモチも受けとめる暖かさが必要だって…湯煙殺人事件 美人三姉妹事件簿パートA 二時間スペシャルで真木幸子が言ってたアル。」


「幸子って誰だァァァ!!しかも何?その家出少女理論ンン!ンな訳分かんねーもん二才児のガキに求めんな!」



「銀ちゃんは本当の女を知らないネ。
世の女はたいていマミーのお腹から飛び出した時から家出願望抱いてるヨ!」


「ねェーよ!!んな願望。…しかも何、お前母ちゃんの腹から飛び出してきたの?恐ェーよ。お前の母ちゃんどんだけ痛い思いしたんだよ!」


いつの間にか脱線してしまっている神楽ちゃんと銀さんの会話に、僕は重いため息をこぼした。





「二人共落ち着いてくださいよ。とりあえず、手分けして探しましょう。ほたるちゃんだってきっとそんな遠くまで行ってないでしょうし…」



「……それもそうだな。」





それから僕の言葉に納得してくれた二人と別れて、僕たちは各々ほたるちゃんの捜索を開始した。



―――……




「ったく、山崎のヤロー…マヨネーズの買い置き位しとけってんだ!」


俺は歩きながら、マヨネーズがびっしりと入ったレジ袋を見やる。屯所の冷蔵庫を開けたら、マヨネーズが一つも無かったため非番の俺が急遽買いに行くことになったんだが……やっぱ納得いかねェー。


「チッ…山崎のヤロー使えねェー…………………あ?」




イライラしながらちょうど公園に差し掛かった時、見知った制服を身に纏い見知った髪型をした奴の背中が砂場に見えた。あの憎たらしい風貌は…見覚えがある所ではない。毎日不本意ながら嫌々見ている面(ツラ)だ。


砂場に近づくにつれて俺の口元が自然とヒクついていくのはもはや反射ということにしておく。
俺の頭痛の原因が自分のせいだっていうことを知らないのか……嫌、違うな。分かってる。絶対分かってやがる。分かっててバズーカで毎度毎度命を狙ってきている。コイツはそういう奴だ。

そいつの背中が目と鼻の先ぐらいになった時、俺は思いきり息を吸い込んだ。




「くォォら!!総悟!オマエ何やってんのォォ!!?」


叫ぶと同時、総悟はそのままため息をはいて俺に向き直った。


「なんだ、そのため息はよ。ため息つきてーのはこっちだコラ。」


総悟はまさに予想していた通りのふてぶてしい顔をしていた。




「土方さん、見て分かりやせんか?砂場遊びですよ。ガキの頃よくやりましたでしょ?」


確かに総悟の間から見て、砂の城だというのは分かる。


…つーか、コイツ無駄にうめェーな―――って違う違う!!


どや顔を惜し気もなく作る総悟の顔にイラついて、ぶん殴ろうとしたものの、奴はいとも簡単に避けやがった。
空をきった俺の拳はストレスを発散させることなく、それを無理矢理押さえ込むように握りしめる。


「俺は、んなこと聞いてるんじゃねェー!総悟、テメッ何さぼってやがる!!!オマエは今日非番じゃねーだろーがっ!」





「いやですぜィ、土方さん。迷子の世話も立派な仕事でさぁー。」


「は………迷子?」


見ると確かに総悟の向かい側にガキが一人座っている。どうも総悟に隠れて見えなかったらしい。
迷子と言うと……正直面倒くさいというイメージでしかない。見たところ、二、三才ってところだろうか。



「……オイ、ガキ。自分の名前と住所くらいは言えんだろ?」


「土方さん、そんな瞳孔開いた目ェして睨んだら言えるもんも言えませんぜ?」

「テメェーは黙ってろ!」



総悟を一蹴してから、ガキを見やると、ガキはじっと俺を見ながら目に涙を浮かべて………は?涙!?



「ちょ…待て」



「あーぁ、土方さんが泣かしやした。
きっとこらァ、俺に副長の座を渡してから、死んで詫びねェーと泣き止まないですぜィ?情けねェーや、土方さん。
つーかそのまま死ね土方。」


ボソッと呟いた総悟はそのフイッと横に顔を向ける。
どさくさに紛れて言い放つコイツの物言いに、俺の血圧は一気に上昇した。


「それ明らかにオマエの願望だろ!?
なァ、オイ!総悟、てめェそっぽむくんじゃねェーよ!!こっち見ろ!」


『う、うわぁぁん!!』


「「!!」」


俺が怒鳴ったことで驚いたのか、いよいよ本格的に泣きやがった。ガキの瞳からは大粒の涙が次々と溢れてくる。

…その様子を見て本気で弱った。ガキのあやし方なんか当然知らねぇ俺は、どう対応して良いのかが分からず、その場に立ち尽くすことしかできねぇ。



《…大の大人があんな小さな女の子を泣かせているわ。》


《見て、あれ真選組よ?》

《いやだわ、やることはチンピラと同じって本当ね。》

《そうそう、特にマヨラー土方が一番酷いでさァー。》



俺たちから離れたところで、子供連れの母親たちが囁きあっていた。まずい。ただでさえ、評判が悪いウチのことだ。これ以上評判を下げちまうと、真撰組の沽券にも関わりかねねぇ。


「総悟。ここは一旦屯所にこのガキを連れて…」




ちらりと隣を見ると先程までその場にいたはず総悟は見当たらなかった。………。アレ?つーか、ちゃっかりさっきの女たちの輪に入ってんのって総悟じゃね!?


《全部あの土方のせいでさァ。
真選組を良くするには奴が切腹するしか…つーかしろ。》



「よっしゃゃゃや!まずはテメェーからだ、総悟。俺が介錯してやる!」





《…あ、聞こえてやした?》


俺の怒鳴り声を聞いた総悟は、遠くで首を傾けている。


……丸聞こえに決まってんだろ。人をおちょくるのもいい加減にしろよ、と内心イラつくも、これ以上騒ぎを起こすのも厄介だと判断した俺は奴に向けた怒りをどうにか鎮めることに成功した。


「チッ、いいからオマエはこのガキを屯所に…」




言いながら一旦ガキの方を向き、先程と変わらぬ大泣きの様子を見て溜息をついた後に、すぐさま総悟の方に視線を向ける。だが、その一瞬の合間に、すでに奴の姿は忽然と消えていた。

そして、思う。


――面倒事俺に押し付けて逃げやがったな、あのヤロー。




「…マジで切腹させっか。」




本気で考えた、今日この頃。

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