物語のうらがわに記す
「というわけで、三宮和也と一部関連組織は御用となったよ。これから、マークしている組織の動きから、組織の影響力その他諸々を追っていく形になるでしょうね。すぐに結果の出る成果では無いけど、これも奴らを一網打尽にする第一歩。焦りは禁物よ」
「分かってる」
今日はコナンくんとデートという名の報告会だ。ポアロのカウンターに二人並んでティータイムを過ごす。外はまだ5月だと言うのに夏のような日差しがさんさんと降り注いでいる。せっかくのお休みだと言うのに、暗い顔をしていては台無しである。
コナンの額を軽くつつくと、年相応の反応を見せるのだから、可愛げがある。
「少年よ、折角の休みなんだから、謳歌なさい。例えばほら、いつものメンバーでリニューアルオープンする水族館とか」
「…今度行く予定だよ」
「そうそう、青春を楽しめよ、少年」
「野宮刑事って時々年寄り臭いよね」
「年寄りじゃなくて人生の先輩としてのアドバイスだから。あんまり調子乗ってると…」
「わわ、やめてよ野宮刑事!」
罰としてきゅっと鼻をつまんでやると、コナンはじたばた暴れる。と、そろそろ行かなくてはならない。会計を済ませて店を出ると、近くに待機していた車に拾ってもらう。
ここしばらくは降谷との連絡役に、彼の腹心である風見を使っていた。降谷は潜入捜査中なのであまり派手に動けないし、降谷は三宮和也の件の捜査本部長ではあるが先述の理由から実質風見の手に移っていた。
「手広くやっていたようです。三宮和也逮捕後の動きから、ある程度カネとモノの動きも掴めています」
「薬に銃火器は調べが着いていたけど、大量の爆薬にオスプレイみたいな軍事兵器とは。黒の組織には恐れ入りますね」
「降谷さんからの伝言です。奴らは中野が動く案件には今のところ絡んでいない。が、別件で動きがきな臭い。しばらく連絡は難しいかもしれない、とのことです」
「別件に心当たりはあるんですか?」
「あたたかくなって、ネズミが随分増えたのを気にしているようです」
「はぁん。そうしたら、降谷さんに伝えてください。当面は空いているので、何かあれば協力する、と」
「伝えておきます。では、私はこれで」
風見に警視庁まで送ってもらい、情報を共有する。あちらは忙しそうだが、未詳は基本暇だ。スペックホルダーはどうしても母数が少ないし、警察の観測力にも限界がある。追っているヤマさえなければ、立派な税金泥棒である。
一年間で慣れた道を進む。地下に行き、昇降機を使わねば入れない、スキップフロアのようなオフィス。昼行灯の係長はメダカに餌をやり、魚顔の同期は餃子をしこたま食っている。それに慣れた自分も大概だな、と思いながら席に着く。
「当麻さんって薬学に興味あります?」
「まあ、人並みには?」
「当麻くんの人並みは人並みじゃあないからなぁ」
「人体を幼児化する薬って言ったら?」
「なにそれ見せろください」
「ニンニク臭いから離れて貰えます?」
コナン以外に灰原哀とも、恵は交流を深めている。実際に組織にいた哀から得られる情報は貴重であるし、科学者としての知見も信頼している。なにより実年齢は近いので、友人のような感覚で休日を一緒に過ごしたりしている。
先日、哀の開発したAPTX4869の解毒薬は開発中だが、研究が行き詰まっていると相談を受けた。試作は出来ているが副作用が強いことや、薬剤耐性がついてしまい、数回で効果は格段に落ちてしまうそうだ。
そんな摩訶不思議な魔法のような薬を信じ、かつその道に明るい者。恵が相談できる相手とすれば、当麻くらいだった。ただ、当麻は十人いれば十一人が変人だと思うくらいなので、常識人で警戒心の強い哀とは非常に食い合わせが悪い。それで、レポートの作成を依頼していたのである。
今日コナン経由で受け取ったレポートを差し出すと、当麻はニンニク餃子を食べている箸でページを進める。やはり会わせなくて正解だったと確信した。当麻は夢中でレポートについてコメントしているが、恵には理解不能な単語ばかりであるのでしばらく放っておくことにする。ひと通り目を通したあと、興奮して会いたいと詰め寄る当麻にストップをかけ、恵は逃げるようにSPECを使って姿を消した。
野宮刑事、この人知ってる?という写メから始まった事件。銀髪にオッドアイと目立つ容姿に、ガソリンの匂いといった昨日の高速道路での爆発事件との関連が挙がる。
「当麻さーん、昨日の高速道路爆発事件って、捜査状況どうなってるか分かります?」
「ありゃ、閲覧ロックかかってる。こりゃ警察庁が絡んでんな」
「で?」
「警察庁に侵入者。犯人追跡中の事故だって。ただし、現場にはライフルの薬莢が一つ」
当麻は天才で好奇心の塊なので、ハッキングはお手の物である。警察庁がロックをかけていても、当麻は警察システムにバックドアを設置済みのため、ほぼ意味が無い。
事件の概要としては、警察庁が絡むとなると、降谷の顔が浮かぶ。組織はネズミ狩りに忙しくなるようだが、事前準備に選ばれたのが警察庁の保管する機密データ、NOCリストなのかもしれない。先手を打とうとわざと警察庁に侵入させて、始末した可能性もある。
また厄介な所に首を突っ込んだな、とコナンの嗅覚の良さに顔が引きつる。この分では警察庁は大騒ぎなはずだ。忙しいところに外野が水を差すのは気が引けるが、有益な情報を渡すので勘弁して欲しい。むしろ感謝して欲しい。
「あ、風見さん?野宮ですけど」
「今ちょっと立て込んでまして、また後程折り返しを…」
「とりあえず今送った写真、見てからにして貰えます?」
こういう時の恵が一切忖度もせず譲らないのを知っている風見が大きく溜息をつき、そして驚愕する。
「彼女、東都水族館で記憶喪失のところを小学生に発見されてます」
「早く逮捕をっ。子供たちが危険です」
「いや、夏休み中のリニューアルオープンで東都水族館は賑わってます。集団パニックになるのも嫌ですし、あまり強引に行くと、勘のいい人間に気取られますよ?」
風見は少し言葉に詰まったあと、情報提供に感謝を述べて電話を切った。さて、コナンくんにはどう説明したものか。
「コナンくん、ちょうどいいところに」
「野宮刑事、大変なんだ!あの人、組織の人間だ!記憶喪失だけど、突然苦しみ出してノックはスタウト、アクアビット、リースリング、分かる範囲でこう言ってた!NOCリストを守らないと!」
「……既に安室さんの部下がそちらに向かっているから、彼女の身柄は警察で保護する。そういう訳だから、安室さんは自由に身動き取れない、分かるね?」
「うん」
「安室さんへの不用意な接触は避けるように。いいね」
「分かった」
ややこしい事になったぞ。
「当麻さん、昨日の警察庁絡みの爆発事件、どうやら警察庁に侵入したのはやばい組織のスパイみたいです。NOCリストを盗みに来たそうですよ」
「やば」
「確実にあちらへ渡った情報は、コードネームがスタウト、アクアビット、リースリングの三名。私は出るので、何か分かったら連絡ください」
「ラジャ」
「そういうわけなので野々村係長、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
あちらへ渡った情報が定かでないが、降谷の置かれた状況は非常にまずい。情報が漏れていなかった時のことを考えると、降谷は風見たちと接触できない。透明化のSPECを持つ恵は、降谷の保護が最優先事項だ。