▼2020/11/21:大正浪漫恋奇譚3/大正時代
◆あらすじ
大正時代の日本にトリップしたプロシュートは博徒連合の元締めの娘である夢主の警護を任される
◆本編
夢主の家は流行りの文化住宅であり、母屋の外観から内装は洋館、離れはこてこての日本家屋で縁側に古き良き日本庭園があった。
夕涼みをしよう、と夢主に誘われて一緒に離れの縁側に腰掛けるプロシュート。夕方といってもまだ陽は出ていて洋装のプロシュートにとっては暑かった。その為、下女に熱い緑茶を出されたことにキレそうになったが、夢主が熱い緑茶を喜んでいたので何も言えず。一緒に出された、汲んだばかりの井戸水に浮かべただけの白玉も、団子とは似ているが得体の知れないものに見えて口をつけたくなかった。
「食べないの?白玉、美味しいわよ?」
夢主はそう言って竹串で白玉を刺し、口に入れる。ゆっくりと上品に咀嚼し、夢主の白く、細い喉が跳ねるのを見つめた。浴衣姿に合わせて髪を結いあげている為に白い首筋がよく見えた。それにわざとのように著しく抜衣紋していて、うなじからなだらかな肩のラインが丸見えで、情欲をそそられた。
数ヶ月前、プロシュートは夜中に自室で夢主の手を握るという暴挙に出てしまったが、結局何も言えなかったことを思い出した。その時彼はそれ以上の手を出せなかった。それは夢主には婚約者がおり、更には夢主の父親──元締めに雇われた身で彼の大事な娘に手を出すわけにはいかなかったのである。
今回も溢れ出そうになる想いを殺して夢主から視線を逸らし、白玉の入った瀬戸の鉢を手に取った。
白く照り輝く白玉の身へ竹串をズブリと差し込み、口へ運ぶ──咀嚼。簡素な見た目通り味は殆どない。が、食感は悪くなく、弾力があり、柔らかく、食べやすくはあった。
──まずくはねえ。
だからといって進んで食べようとは思わなかった。以前なら「まずくない」というだけで幾らでも栄養摂取の為に食べただろうが、最近食事に困ることが少なくなったからその必要はなくなった。
まずい食事を避ける為に煙草を吸い出し、次第に痩せてきた自分の為に、夢主が畜産業に手を出してくれた甲斐あって、毎日肉にありつけ、貿易ルートの開拓で香辛料などの調味料も豊富に手に入れてもらえることもあって食事の質まで上がってきたのだ。
ただ、白玉の食感から祖国のとある料理を思い出し、急にその味が恋しくなった。
「ニョッキが食いてえ」
「にょっき?なにそれ?」
「これより弾力があって、どんなソースにも合うんだよ」
「それは伊太利亜料理?」
「ああ。ガキの頃はあんま好きじゃあなかったが、ここの西洋ウドンとかいう偽パスタよりはずっと旨いもんだと思うぜ?」
「にせぱすた?よくわからないけど、あなたが食べたいものならなんでも用意したいわ。下女に詳しいことを話して作ってもらいましょう。それにもうすぐ雇った伊太利亜の料理人が来日してくる頃だから、その方に作ってもらうのもありね」
「そりゃあ、ありがたい。最近、オレの好みに合わせてもらえて本当に助かっている。悪いな」
「気にしないで。あなたは私やお父さまにとって大事な人だから……あなたの為なら私たちはなんでもするわ。また困ったことがあったら言ってね?」
夢主は耳を赤く染め上げてプロシュートを上眼で見つめた。「私やお父さまにとって」などと、誤魔化して言っているが、本当は「私にとって」であるとプロシュートは気付いていた。夢主が随分前から自分に好意を寄せていることは明らかで、両想いなのはとっくにわかっている。それでも手を出せないのは自分と夢主の関係上仕方のないことであった。
少しでも夢主に気持ちを伝えたいプロシュート。この時代では手を握るだけでも十分に愛情を伝えられる、と同じ組の中で比較的信頼のおけるバラケツから聞いたことを思い出した。確かに、数ヶ月前に夢主の手を握った時、彼女がキスでもされたような大袈裟な反応をしていた。
──手を握るだけなら。いや、こんなところを他の誰かに見られでもしたら……。
らしくもなく、迷うプロシュート。視線は無意識のうちに夢主の膝の上に置かれる手へ注がれる。──薄い浴衣生地の上に置かれた色の白い、指の真っ直ぐ伸びた美しい手。一方、自分の手はこの世界に来てから以前より他人を傷つけ、何人もの人間を闇に葬り、すっかり穢れきっている。そんな手が彼女の手を握りたくて疼いている。
☆どうするプロシュート──!?
< 大正時代>