shawn (1/2)



私だけは初日からショーンのことを人狼だなんて思わなかった。彼は寡黙だけど、皆のことをちゃんと見ているし、発言も聞いている。私と話すときはいつも情報を整理して全部教えてくれる。こんな良い人が人狼なんてあり得ないのに、皆は彼を少し怪しんでいる。
毎日夜が来る前に人狼だと思う人に投票し、最多票を集めた人を男の人達が撃ち殺して来たけれど、皆人狼じゃなかった。その証拠に今朝、人狼の爪痕が残った遺体が客室に転がっていた。まだまだこの狂ったゲームは終わらないし、外の猛吹雪も一向に止む気配がない。
そして、今日の会議で票が集まるのはショーンだと考えられる。昨日まではショーンより怪しい人がいたからショーンは殺されずに済んでいただけだ。人狼候補がショーンだけになった今日、ショーンは殺されてしまうかもしれない。
会議までの空き時間にショーンの部屋に行き、なんとか会議での発言を増やすようにお願いした。ショーンは吹雪で白しか映らない窓の外を眺めていて、私の話が終わると私を振り向いた。黒褐色の、外側に跳ねている前髪から覗く広い額には皺が刻まれていて、眉根を寄せている。ショーンはいつもこの表情をしている。一見陰気に見えるけど、探偵という職業にぴったりの表情だから私は好き。

「私は素より口数が少ない」

これがショーンの言い分だった。私は彼の寡黙気味な所も好きだから、非難はしないけどもう少し頑張って欲しい。

「だからって黙っていたら疑われるし、人狼候補があなたを黒塗りするかもしれないわ」

「……私は"彼"が人狼だと思う。だから、今日は"彼"が人狼である証拠を会議であげていく」

ショーンの言う"彼"は確かにずっと怪しかった。ショーンも私と同じ意見であるのと、ちゃんと会議で話してくれるようなので安心した。

「なら、今日の投票、私も"彼"にいれるわ。でも、二票じゃ足りないわよね」

「今生きているのは七人。私と君で二票。あと二人説得できれば確実だ。私が会議中に説得する。ニックとカミラは私を疑ってはいるが、柔軟な思考をしているから大丈夫だろう」

「それなら、クリスは? あの人私のことは全く疑ってないの。私がお願いしたら、"彼"に投票してくれるかも」

「なら、私も行こう」

ショーンは心配してくれたのか、ジャケットを整えてついて来ようとしてくれた。でも、ショーンがいない方がクリスは私の言うことを聞いてくれる気がした。それは昨日のマイクの時も同じだったからわかるのだ。

「一人で大丈夫よ。私を信じて」

「ああ。君を信じよう……」

ショーンは消え入りそうな声で言う。その表情は不安気で、私のことを信じてくれていないのか心配になってしまう。



*



「と言うわけで、"彼"に投票してね」

ショーンの隣のクリスの部屋で、クリスを説得していた。クリスの部屋は煙草の匂いで充満していてとっても臭くて最悪。その点ショーンは煙草を吸わないし、綺麗好きみたいで毎日体を清めているらしく体臭が薄い。ただ、クリスより細身なので、欲を言うならショーンにはもっと太って欲しかったりする。
私が説明している間、クリスは煙草を吹かしながら窓の外を眺めていたので、本当に聞いていたのか疑問だ。

「今日はおまえに合わせてアイツにいれる。だが、条件がある」

クリスは煙草を灰皿に置き、私の方に顔を向けた。一メートル程空いていた距離を少しずつ詰めて来た。煙草臭い。

「何?」

「今夜は俺の部屋で寝ろ」

昨日のことを思い出した。昨日もショーンに投票しないでと説得すればこんな風にあの人に誘われた。そしてあの人は……。
予想はしていたけど、こんなにもストレートに言われるなんて思わなかった。

「なんで……?」

「アイツで終わらなかった場合、俺は今夜死ぬ可能性がある。死ぬ前くらい女を抱かせろ。アイツで終わったなら良い祝いになるしな」

「祝いって……」

あの人は私ではなくて、女を抱きたくて私に迫ってきた。この人も同じだなんて本当にこの屋敷にはまともな人間はショーンしかいない。

「それより本当にショーンは狼じゃないんだろうな?」

クリスもショーンを人狼と疑っていたからショーンの白さを呈示したのにまだ疑い深く聞いてきた。

「ええ。探偵仕事の話も細かく教えてくれたから大丈夫よ。例えばロンドンで起きていた変死体の捜査の話とか、その日付や時刻、被害者の名前まで教えてくれたわ。こんなこと、人狼じゃ言えないと思うわ」

「へえ。探偵のクセして今まで人狼見つけてないってのは信用に欠けるがな。そのせいで皆はショーンが人狼だって思ってるぜ」

「その割にはショーンって冷静じゃない? だから、ショーンが狼な訳ないし、"彼"が絶対に人狼よ。だって昨日怪しかったもの」

「まあ、確かに」

クリスは納得してくれた。そのくらい昨日の"彼"は怪しかったのは事実だから、助かった。これでショーンはもう一日生き残ってくれる。
安心して部屋を出ようと扉に手をかけると、後ろからクリスに抱きしめられた。煙草の匂いがキツいし、クリスなんかに触られたくない。

「ねえ! 離して!」

「出て行く前に頭金ぐらい払えって」

「頭金? お金なんて……」

頭を掴まれて、クリスの方に顔を向かせられたかと思えば、額にキスを落とされた。一瞬唇を奪われると身構えたのに、額で済まされて意外と紳士な所があると思ってしまった。でも、よくよく考えれば抱かせろと言ってくるのは紳士でもなんでもない。

「ほんじゃ、出て行っていいぞ」

部屋から出ると漸く煙草の匂いから解放されたけど、服に煙草の匂いが染みついている気がして嫌になった。



*



「投票は四対三でロディの処刑が決まったな」
ニックは冷静に、でも嫌そうにいう。何故なら、"彼"──ロディはここでは最年少だからだ。それでも、ショーンの口車に乗せられてロディに投票したのはニックだ。

「ま、待て!僕はあの領主の息子だぞ!人狼な訳ないだろ!馬鹿か!」

ロディは自席の椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、円卓を両手で強く叩いて喚いた。
昨日からロディの暴言は目に余っていた。若いとはいえ、世間知らずで傲慢な態度は見ようによって人狼に見えなくもない。昨日の投票先の理由も投票が集まりそうな所にいれたとふざけた内容だった。
暴れるロディを止めようと、ニックが立ち上がったけど、それは必要なくなった。
大きな銃声と共にロディは石のように固まって仰向けに床に倒れた。
初日と二日目のように悲鳴は上がらなかった。ただ、何人かは耳に痛そうに触れ、何人かは床に転がるロディを恐ろしげに見た。私は痛む耳を塞ぎながら、クリスの方を見た。

「クリス……」

ロディを撃ち殺したクリスは顔をしかめていて、そんなクリスの顔を見たニックは何かを言おうとして結局黙った。皆思ってる。「二十歳に満たない子を殺してしまった」って。

「クソッ! これで終わるといいな!」

クリスは私に向かって怒鳴ると会議室を出て行った。私に唆されて若い子を殺してしまったことに気分を悪くしたんだろう。



*



今日の夜も一人じゃなかった。昨夜はマイクで今夜はクリス。二人共タイプじゃないし、クリスに至っては煙草臭い。嫌々肌を重ねるけど、クリスは途中で私の上から退いてベッドに背中を沈めて薄暗い天井を見上げた。

「駄目だ。やっぱり駄目だ」

クリスは目にかかったダークブラウンの前髪を横にかき流し、ぼやく。

「何が駄目なの?」

「ロディで終わった気がしねぇ。死ぬ前のロディの目見たか?」

「あんまり見てないわ」

「ありゃ人間の目だ。明日で終わらせねぇと……まあ、今夜死ぬならおまえと一緒だからそれもそれでいいか」

私と一緒ならいいというのがわからなかった。クリスにとって私はただの女。女と一緒ならいいって意味なら納得できる。

「ねえ、私のどこが良くて誘ってきたの?」

「目かな。子犬みてぇな丸い目。人狼なんてマイクみてぇな冷ややかな目だろ。おまえの目なら安心できる」

「でも、マイクは今朝殺されちゃってたじゃない」

心臓を抉られ、鉤爪と牙の痕だらけのマイクの死体を思い出した。

「まあ、そうだけどよ。んで、おまえは俺のどこがいいんだ?」

クリスは馬鹿。私はショーン以外に興味がないのにそれをわかっていない。

「このダークブラウンの髪と澄んだ瞳かしら? 子供の頃はもっと明るかったの?」

クリスの髪に触れ、聞いてみた。クリスの髪はショーンのように黒に近い茶色だ。

「……ダークブラウン? 今の俺の髪がダークブラウンに見えるのか?」

クリスはがバッと起き上がり、私を見つめる。そして、ハッとしたような顔をして恐怖で顔を歪めた。

「おまえの瞳の色、そんなに赤かったか? 光って……」

「私の瞳、本当は茶色なの」

「まさか」

それがクリスの最期の言葉だった。



→next
 
ALICE+