「ローレンツくんとずっと一緒にいたい……!」

覚悟を決めて、ローレンツくんが取ってくれた手を握り返した。

「ほ、本当か?」

「うん。ローレンツくんのこと好きだから辛くても何があっても一緒にいたいよ……辛かった時、ローレンツくんに会いたくて仕方がなかったの」

「そうか。嬉しいよ、ナマエさん」

ローレンツくんは立ち上がると、もう片方の手も取って優しく握ってくれた。

「僕と君の婚姻は茨の道だが、僕は必ず君も君の家族も守り抜くことを固く約束する」

「ありがとう……」

「さて、そうと決まれば婚姻の準備をしないといけないな。君にも貴族としての作法を身につけてもらわねばならん。早速だが、まずは制服のスカートは長くしてもらえるだろうか?その……少し短めだし、下着はちゃんと穿いて欲しい……」

今朝と同じく顔を真っ赤にさせて言うローレンツくんに、先日起きた事件を思い出してしまう。

「……ローレンツくん、やっぱり覚えてるの?」

「わ、忘れるわけがなかろう!慕っている女性の大事なところだ。目に焼き付いて離れない」

「ローレンツくんの変態!馬鹿!」

「なっ!下着を穿いてない君に言われたくない!」

「ちゃんと可愛いの穿いてるもん!下穿きだって穿いてるし」

バッとスカートを捲ってローレンツくんに見せた。
下穿きを見せただけなのに、ローレンツくんは口を大きく開けて押し黙った。

「ほら、ちゃんと穿いてるでしょ?あの日はたまたま下着と下穿きが盗まれて穿いてなかっただけなの!」

スカートを下ろして、ローレンツくんを睨みつければ、ローレンツくんは顔を背けて私のスカートを指さしてきた。

「ナマエさん、派手な色に細い紐の下着など……は、破廉恥だぞっ!」

「え?何言って……」

そういえば、空気がよく通ってスースーする。お尻を触って確認すると、下穿きを穿いてないことに気づいた。

「ローレンツくんの変態!もう知らない!」

「何故そうなる!?」

ローレンツくんに背を向けて部屋に飛び込んだ。
すぐ様扉に鍵をかけると、ローレンツくんに扉を叩かれた。

「ナマエさん、僕は何も見ていなかったから許してくれ!」

「許すけど、恥ずかしいから忘れて!」

「ああ。忘れる努力をするからここを開けて欲しい!せっかく婚姻の約束をしたのに顔を見て話せないなんてあんまりではないか!」

「あわせる顔がないの……ローレンツくんには今まで沢山助けてもらったのに、家のことまで巻き込んでそれも助けてくれて……なんてお礼を言ったらいい……?」

「礼などいらない。妻を支えるのは夫の務めだ。それから今後のことだが、ナマエさんは今まで通り何か困り事があれば僕だけに頼って欲しい」

「本当?迷惑じゃない?」

「当たり前だ。むしろ、未来の妻が他の男を頼るところなど見たくはないからな」

「妻って……もう、照れちゃうよ。じゃあ、困ったらまた金鹿(ヒルシュ)の教室にいくからよろしくね」

「ああ。僕も金鹿(ヒルシュ)の皆も歓迎する。むしろ、金鹿(ヒルシュ)の生徒達はナマエさんが最近教室に来ないと心配していた」

「そうなんだ。それはそれで嬉しいな」

確かに金鹿(ヒルシュ)の皆は私に話しかけてよくしてくれていた。金鹿(ヒルシュ)の友達に挨拶する為にも、助けてもらうならローレンツくんのいる金鹿(ヒルシュ)の教室に行こうと思う。

「とは言っても常に君の近くにいられるわけではないからな。在学中は君を助けながら、僕が傍にいてやれない時用に君への指南書を作り上げて見せるよ」

「指南書?」

「君が困った時に索引を引いてもらって、指南通りに動けば解決するような書物を作るのさ」

「そこまでしてくれるの……?ローレンツくん、優しすぎるよ!」

私の為に指南書を一から作ってくれるなんて、ローレンツくんの余りある優しさに感動した。

「それ程君のことを慕っているのだよ。さて、そろそろここを開けてくれないか?」

「うん……」

恥ずかしいけど、やっぱり好きな人と顔を見ながら話したかった。
扉を開けて、部屋の中にローレンツくんを招き入れた。

「ナマエさん、君の不安は僕が全て取り除く。だから、君にはずっと笑っていて欲しい」

「……ロジーナさんのことは大丈夫なの?」

「正直こればかりは先生の力を借りないと難しいと思っている。困ったことに彼女は何故か僕にご執心らしいからな……」

「ローレンツくんは容姿端麗で才気煥発だからね」

「君もそう思ってくれているのか?」

「うん。初めて会った時から綺麗な人だと思ってたの。それから魔道の実技を見て、凄く才能に溢れた人だなって」

「そうか。そうだ。そうなのだよ。僕は容姿だけでなく才能に溢れた男だからな。しかし、君も聞くと弓術の才があると言うではないか」

「誰から聞いたの?」

「シャミアさんからだよ。ちゃんと集中さえすれば、ナマエさんの狙いは正確で五射で終わらせる課題も三射で終わらせたと聞く。だが、君は将来騎士ではなく僕の妻となるのだから花や蝶のままでいてくれていい。この可愛い手を汚す必要はない」

またローレンツくんが私の手を取り、手の甲を指の腹で撫でてくれた。手の平は豆だらけだから撫でられなくて安心した。
確かにグロスタール夫人になるのだから騎士にはなれないし、夫人としての仕事をしなくてはいけない。でも、助けられるなら助けてあげたい。

「夫が戦場に行く時は私も近くにいて戦いたいよ?」

「ナマエさん、僕は君の為なら持ち場を離れてでも君を助けに行くことを選んでしまうだろうから、それはよしてくれ。しかし、まだ先の話だ。今は騎士になる前提で弓術の練習をしてはいいが、無理をしないようにな」

「うん!」

ローレンツくんが戦場に立つ時に傍にいられないのは嫌だけど、ローレンツくんの言う通りまだ先の話だ。今は私のできることをしたいと思う。

「では、僕は先生にロジーナさんについて相談してくる。君はもう眠るのか?」

「ううん。アンとメーチェにこの事話して、フェリクスくんにも話したい事あるからまだ寝ないよ」

フェリクスくんがあんなに私を想って言ってくれた言葉は嬉しかったけど、断る返事をしないといけない。

「フェリクス?やはり、さっき何かあったのだな!僕もフェリクスに用がある!君はもうフェリクスのところへ行かなくていいぞ!」

ローレンツくんはそう言うと、部屋から飛び出して行ってしまった。
行かなくていいと言われたけど、フェリクスくんにはちゃんとお返事しないといけないからどうしようかと悩んだ結果、私もフェリクスくんのところへ行くことにした。
フェリクスくんの部屋まで行くと、外までフェリクスくんとローレンツくんの言い合いが聞こえてきて、恐る恐る部屋の中に入った。

「ナマエ!またローレンツを差し向けたな!許さんぞ!」

「フェリクスくん、ごめんね!でも、差し向けたつもりはなくて……」

「ナマエさんを怖がらせるな!大体ナマエさんが僕を慕っているとわかっておきながら手を出そうとするなど、紳士のすることではないぞ!」

「そも俺は紳士ではない!お前が頼りないから俺が守ってやろうとしただけだ!」

「た、頼りないだと!」

「ふたり共、喧嘩はやめてよ!」

「喧嘩ではない!これは僕とフェリクスの話し合いだ。今のうちに決着をつける必要がある。僕のいない間にナマエさんを誑かされては困るからな!」

「誑かすだと?人の親切心をなんだと……」

段々お互いの口調が激しくなってきて、止めないとまずい雰囲気なことを察した。私じゃ止められないから誰か頼りになる人を呼ばなくちゃ。

「助けてクロードくん!」

慌ててフェリクスくんの部屋を飛び出して、隣のクロードくんの部屋に行くことにした。

「なっ!ナマエさん、クロードに何を頼るつもりだ!?」

ローレンツくんが私を追いかけてきたけど、そのままクロードくんの部屋に突撃したら、部屋には誰もいなかった。

「ナマエさん、僕とフェリクスの話し合いが終わるまではイングリットさんの部屋にでも行くといい」

「話し合いには見えなかったよ?」

「ぐっ……確かに議論が熱くなったようだ。フェリクスと冷静に話し合うことを君に約束するから待っていてくれ」

「わかった」

ここは大人しくローレンツくんに従って、同学級のイングリットちゃんの部屋に行った──と見せかけて、ローレンツくんが見えなくなったところで廊下を走ってベレト先生を探しに行くことにした。

ヒルダちゃんの部屋の前の短い階段を駆け下りようとして、猫ちゃんが階段の途中にいることに気づいて避けようとしたら、足場を踏み外して階段から転げ落ちてしまった。
幸い驚いた猫ちゃんは無事に避けてくれたからよかった。

階段が短くなだらかなお陰でそんなに痛くなくて、特に怪我もしていないと安心して立ち上がろうとすると、左足首に力がうまく入らなくて、立ち上がれなかった。
しまった。足を挫いちゃったみたいだ。

「助けてローレンツくん!」

歩けなくなった絶望でつい叫んでしまうと、どたどたと足音を響かせながら後ろの方から誰かが走ってくる気配がする。

もしやと期待して階段の上を見上げると、颯爽とローレンツくんが現れた。

さっきまでフェリクスくんと言い合っていて怒り顔だったローレンツくんは、いつも私を助けてくれる時と同じく心配そうな顔をして階段を降り、あの温かい手を私に差し伸べてくれた。
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