昼食の後にのんびり釣りでもしようかと思って、食堂を出たところでベレト先生に声をかけられた。
「ベレト先生、こんにちは!何か用です?えっ?くたびれた布が落ちてたって?」
ベレト先生は相変わらずの無表情でスッと私に白色の布のようなものを差し出した。何か見覚えあるような。折りたたまれた布を受け取って広げた瞬間に気づいた。これは──
「これ私のパンツ……!あの、どこで落ちたんですか……?えっ?私の部屋で……?」
床にパンツを放ってしまった私も悪いけど、勝手に人の部屋に入って拾うなんて信じられない。
「先生の馬鹿!変態!もう信じらんない!助けてローレンツくん!」
こんな辱めを受けたのは生まれて初めてだった。恥ずかしくて仕方がない。ローレンツくんに言いつけて、先生が二度と私の部屋に入らないようにローレンツくんから注意してもらわないと。
そう考えてパンツをポケットに突っ込んで、大広間を走り回ってローレンツくんを探した。
「あ、殿下とクロードくん!」
大広間の廊下でディミトリ殿下と
「よう、ナマエか。またうちのローレンツに用か?今日で三度目だぞ」
クロードくんが愉快そうに笑う。
私がクロードくんのところの教室にお邪魔してローレンツくんを借りるのは毎日のことだけど、今日はまだ一回しか借りていなかった。
「まだ二度目だよ!今急いでて!ローレンツくんに用事があるんだけど、知らない?」
「そんな真っ赤な顔で用事とは怪しいな」
クロードくんはいつものからかい調子で言う。
クロードくんとヒルダちゃんはよくローレンツくんのことが好きなのかとからかってくるので、その度に困っていた。私にとってローレンツくんは大事なお友達でも恋愛対象ではなかった。
「顔が赤いのはベレト先生に辱めを受けたからなの!それで、ローレンツくんは見てない?」
「俺は見てないぜ」
「ローレンツならうちの男子生徒達と中庭に行くのを見かけたが……ベレト先生に辱めとはどういうことだ?級長として、見過ごせる言葉ではない」
責任感の強い殿下は私の言葉を拾ってくれたけど、殿下の手を煩わせる訳にはいかない。
「ローレンツくんが全部解決してくれるから大丈夫です!中庭に行ってきます!殿下、ありがとうございます!」
殿下に頭を下げて、クロードくんには手を振ってから、大広間と繋がる食堂の方へ抜けて中庭に向かった。
ローレンツくんは殿下の言う通り、中庭でファーガスの有力貴族達とお茶会をしているところだった。
「やあ、ナマエさん。どうしたんだい?」
「ローレンツくん、聞いて!ベレト先生が私のパンツ盗んだの!!!」
「なんだって!いや、すまない。皆、緊急事態のようだから僕は先に失礼するよ」
ローレンツくんは席を立つと、私の方へ来てくれた。
「ナマエさん、そういうことは声を落として言いたまえ。話は向こうで聞こう」
ローレンツくんに腰を抱かれて、食堂の北の木陰のベンチまで移動した。
「それでは話を聞こうか」
「先生が私の部屋に勝手に入って、私が置いといたパンツ拾って落し物だって言って私に渡してきたの!すっごく恥ずかしかったんだから!」
「置いておいた?どこにだ?」
正直私にも非があることはわかっている。だから「置いといた」と表現したけれど、ローレンツくんにそこを拾われてしまって困った。
「……ゆ、床に」
「ナマエさん……それは放っておいたの間違いでは?君は女性であることをたまに忘れているようだ」
「違うの!たまたま落としてそのままにしてただけなの!」
「仮にそうだとしよう。女性の下着を拾って本人に渡して辱める等言語道断だな。よし。僕からベレト先生に注意しておこう。女性の君からだと言いにくいだろうからな」
「うん!ありがとう!あのね、先生には私の部屋に入ること自体禁止にして欲しいの!」
「わかった。だが、その前にどうか……その、下着はきちんとしまうようにして欲しい」
ローレンツくんは白い頬に赤みを帯びさせて言うので、ちょっと下品な話をしてしまったと後悔した。そういえば、ローレンツくんは下品なことが苦手なのだ。
「うん!気をつけるね!」
「ああ。よろしく頼む。先生にはしっかりと伝えておくから安心したまえ」
「ありがとう!やっぱり、ローレンツくんに言ってよかった!じゃあ、私は講義前に一旦部屋に戻るから!」
「ああ。慌てて転ばないようにな。おっと。ナマエさん、ポケットからへたったハンカチが落ちたぞ。ハンカチはきちんとしたものを使いたまえ」
そう言ってローレンツくんが拾いあげたのは私のパンツだった。
「ローレンツくんの馬鹿!変態!」
「どうしてだ!?」
ローレンツくんの手からパンツをぶんどるように取り上げて、その場を走り去った。
ベレト先生だけでなくて、ローレンツくんにまでへたったと酷い言いようをされて恥ずかしくて仕方がない。
学年一お洒落に気遣うヒルダちゃんに頼んで一緒にちゃんとしたパンツを買いに行ってもらおうと思った。