mio eroe umanistico �T
ナマエは危険思想傾向にある頭のイってる女だ。リゾットから召集がかかる度に行方をくらませ、2ヶ月前なんかは「狂気じみた恋愛がしたいの」と任務を拒否して如何にも怪しい占星術師の女と東欧に旅立ったきり半月帰って来なかったことがあった。リゾットの説得で漸く帰ってきたかと思えば「マインドコントロールを勉強したいの」と水をよく飲むことを教えとしているよくわかんねえ新興宗教に傾倒して暫くいなくなり、リゾットが連れ戻した時には洗脳されちまったのか、常にストロー付きボトルを持ち歩き、頻繁にストローを咥えるもんだから、仲間内で『咥えたがり女』っつー下品なあだ名が付いた。
最初は飛級の大卒女が何故組織にいて、更に暗殺チームに配属なんだよ、と怪しんでいたが、過去にとある国の政府に対してテロ未遂を犯した思想犯と知って納得がいった。そりゃあ、表じゃあ生きられねえわけだ。
「あの女、またいねェのか」
集会の時間にアジトの居室に行けば、またナマエだけいなかった。
「今日こそドブん中で死んでるかもな」
「……あり得るな」
この手の表現を嫌うリゾットがオレの推測に同意した。
それ程ナマエは危うさのあるヤツだった。ナマエは人の命はおろか、自分の命さえなんとも思っていないようなやつで、いつか呆気なく死ぬだろうってのがオレらチームの総意だった。
「各自ナマエを探して来い」
「チッ。またかよォォ〜ッ」
「あの女見つけたらただじゃあおかねーぜ」
ギアッチョやイルーゾォはキレ気味に言うがふたりとも腰は軽い上に、いつも最後には「次は気を付けろよ!」で済ませている。
結局性別が女であれば、オレたちは甘かった。この国に生まれた男は皆そういうもんだ。仕方ねえ。ま、その甘やかしの結果がコレだけどな。
*
ナマエはマジにドブの中に転がっていた。
道路と道路を挟む狭い堀の間に挟まるようにして、ビニール袋に覆われたゴミのようなものの上に頭を乗せて下半身は全て泥水に浸かっていた。
服は汚したくねーが、生死が問われる状況である以上、助けない選択肢はなかった。急いで堀を下りてナマエをドブの中から引っ張り上げた。
首の辺りで脈を測れば生きているようで、問題なく呼吸できていることも確認した。
ぐったりとして意識を失っているナマエをアジトまで運び、早速バスルームの浴槽に放り投げて服のままシャワーを浴びさせた。
「うう……ぶはぁっ……」
ナマエの顔面にシャワーをかければ、すぐに眼を覚まし、顔を歪めてシャワーの水圧から逃げるように両手を前に突き出した。
「オイ!それじゃあ、汚ねェ面が洗えねーだろーが!」
「私、上の上よ!」
「うるせェッ!その泥に塗れた顔を洗ってやってんだろーが!あとオメーは良くて上の下だッ。勘違いドブ女ッ」
「私、服着てるのよ!?なのに服ごとプロシュートにシャワー浴びさせられてるっ!私に何する気なの!?」
ナマエは両手で自身の身体を掻き抱き、オレから身を引いた。
興味もねえ女、それもドブ女に勘違いされんのは腹が立つ。
「ブッ飛ばされてーのか?オメーがドブん中で死んでたから助けてやったんだろーが!オラッ!服脱げ!臭ェんだよッ!」
シャワーヘッドを浴槽に放り込み、浴槽の外から手を伸ばしてナマエの服に手をかけた。
「イヤよ!」
「なら、オレが上がった後にひとりで綺麗にしやがれッ」
仕方ねえから、靴と靴下を脱いで浴槽に入り、脚に当たるナマエを気にせず、スーツのままシャワーを浴び、服から泥水の汚れを取っては一枚ずつ脱いでいき、最終的に全裸になった。その間ナマエは浴槽の隅で顔を両手で覆い、オレが洗い流している泥水に濡れても黙っていた。
しおらしくしていても、ナマエがドブん中で転がっていた事実は消えねえ。汚ねェ女として、オレの記憶からは一生消えねえだろう。
*
ペッシに買ってこさせたスーツ一式と革靴を履いて居間に移動した。
ナマエの服はホルマジオが買ってきたらしく、ピンク色のワンピースとそれより濃いトーンのハイヒールをローテーブルの上に広げていた。ナマエの普段着はいつも暗いトーンのアンサンブルのカーディガンに膝丈の台形スカートで、カトリックの保守派みてえな地味な格好だった。淡い色はあいつの顔に似合うかどうかは置いておいて、あいつの中身には圧倒的に似合わねえ。
「ドブ女にそれはねーだろ。あいつには茶色がお似合いだ」
「咥えたがり女もこういうのを着れば、ドブで寝ることもねーだろ?」
ホルマジオはワンピースを持ち上げて見せた。ナマエが着ているところを想像してみたが、どうにもドブで寝ていたイメージが離れなくて似合う気がしねえ。
「つーかよォ、マジでドブで寝てたのか?イカれてんだろ」
「ああ。ゴミを枕にして死んでたぜ。ヤクかここの検査すべきだな」
こめかみの辺りを指先で叩いて見せれば、ホルマジオが腹を抱えて笑い転げた。被害にあったオレからしたら全然笑えねえ。
「ちなみに下着も買ってきたが、サイズ合ってるかわかるか?バスルームでナマエの裸見たんだろ?」
「見てねーよ。それは広げてやんな」
ホルマジオの趣味か、黒いレースの下着を買い物袋から出し始めたのを止めた。あのドブ女を庇うのは、一応あいつが生物学上は女だからだ。
「リゾット、あの女の扱いどーすんだ?あいつの所為でオレらに余計な手間かかってんだろ。オレは服と靴が駄目になっちまったぜ?」
リゾットに向いて指示を仰いだ。リゾットのことは信頼しているし、頼りになる男だと思っているが、ナマエという女をこれまで放置してきたことには腹が立っている。勿論、リゾットがナマエを叱っているところは何度も見てきたし、本人が口答えせずに「気をつけます」と反省している様子を見せていたが、結局ナマエはいつまでたっても任務から逃げ回ってオレらに迷惑をかけ続けている。
「そうだな……犯罪者用のGPSをアンクレットにして付けさせてみるか」
「それで誰があいつの所在確認すんだ?」
「全員がナマエの居場所を確認できるようにする。当分集会前に全員ナマエの所在地を共有し、その時近くいた誰かが迎えに行け」
リゾットの命令には逆らえねえ。どうかナマエがまたドブん中で寝てねえことを祈って頷いた。
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