「……は?」


 月末故の残業をして、浮腫んだ足を引きずって自宅のアパートに備え付けのポストを確認したら、一段と低い声が出てしまった。
 装丁の綺麗な封筒には明朝体が私の名を刻んでいて、ああまた名字の変わる予定の友人から届いた招待状かな、と他人事にひっくり返して送り主を確認したら。


「この歳で’’魔法使い’’って冗談でしょ……」





… … …




 この国には、『魔法使い』という政府公認の職業がある。

 それは例えば、予知夢だったり天候が読めたり動物の心中が理解できたり。そのような一般人が持ち得ない、特殊能力が生まれつき備わっている人間には、その能力に沿って相応しい行政機関に勤める義務があるのだ。わかりやすく言えば、あんた天候読めるんなら気象庁でお天気キャスターよろしくね、というかんじだ。
 勿論、中にはそんな楽な能力持ちだけではない。(お天気使いの皆様ごめんなさい)
何かしらの方法を持って過去が見える人間は警視庁に配属されやすく、見たくもない凄惨な事件の容貌をお国の為、被害者の為と言い聞かせながら見させられたりするし、反対に未来が見えてしまうものならそれこそ、政府のオエライサマに囲まれ男女問わず生涯飼い殺されると聞いた。

 はい、ここで大事なのは、聞いた、ってところね。
魔法使いなんていうのは基本血筋な訳で、心読みの家には心読みが産まれるし、呼び寄せ(イタコみたいなもの)の家には呼び寄せの子が産まれるし、その上同じ業種や魔法使いの血筋の者同士でしか婚姻を結ばないから、まったく彼らに関わらない私のような一般人からすると、上記のような魔法使いあるある話なんてのはそれこそお伽噺のようなものなのだ。
下手すると喫茶店でぺちゃくちゃ話してるおばちゃんらの、盛り上がるためだけに誇張された週刊女性××身並みの盛りようかもしれない。

 それくらい、魔法使いというのは稀な存在で、そもそもその血筋の子はそういう専門機関で幼少から隔離されているし、いずれ羽ばたく社会へのレールが明確に決められてるので、行政機関に勤めるならニアミスする機会もあるかもしれないが、基本的には都市伝説と同じ扱いだっつのに、なんなんだこの、手紙の文面は。




|
ALICE+