「――その、なぜ、私なんですかね。母親が、審神者とか何とかって言ってましたけど……あまり記憶がないものですから」 手に握るスチール缶をにぎにぎしながら、ひとつずつ言葉を紡いでいく。記憶がない、なんて、恥ずかしくて情けなくて言いたくなかったけれど、事実だから仕方がない。寧ろ、この男の方が、娘の私よりも母親のことを知っているであろう。 「先代は――失礼。ついそう呼んでしまうのでございます。貴女の母君がわたくしどもの偉大なる審神者……ここでは、魔法使いと呼ばれるそうですね。それであったことと、貴女の母君であることは、紛れもない事実でございます。決して別人の話をしているわけではない。それだけは、念頭に置いておいていただければ幸いです」 「……私の母、が、魔法使いであったというのはわかりました。でも、さっきも言いましたけど、私には母の記憶が、ほとんどありません。こんのすけさんや、昨日一緒にいた方のほうが、母との思い出を共有していますよ。きっと、たくさん」 私、たぶん、愛されてなかったですから。 言葉にしたあとに、濁流のように胸の内に流れ込んできた痛み。 愛されてなかった。 父親は私を愛せなかったから逃げたのだ。 母親は私より別な人間を愛したかったから消えたのだ。 祖父は私を愛すことに疲れたから逝ったのだ。 ひとにとって、一番最初に近くにいる生き物から愛されることを拒まれた私は、もう、 どこに行けばいいの。 「…………わたくしたちは、貴女に我らの審神者になってほしい、ただそれだけのために、わざわざこちらまで来たわけではないのですよ」 「、どういう意味ですか」 「ご自分の目で見て、感じてほしいのです。我々の本丸へいらして、ここで何があったのかを。母君が我が子を犠牲にしてまで守っていたものは何かを。貴女が何者であるかを。それをきちんとご覧になった時、きっとおわかりになると思います」 「なにが?」 こんのすけはこちらを向くと、にっこり笑った。チェシャ猫を彷彿とさせる笑みだった。 「貴女にとって、ほんとうに大切なことですよ」 top ← | → |