今まで生きてきて、極度に嫌われることなんてなかった。嫌われるようなこともしなかったし、嫌われるほど深い付き合いもしてこなかったからかもしれないけど。
だからこそ、あの男の、私に対する態度はひどく私を狼狽えさせた。
軽蔑という言葉がぱちりと当てはまる、あの表情。
 いったい、私が何をしたというのか。
私が、何かされた側だということを、きっとあの男たちは知らないのだ。
なぜか、あの男たちが心酔する、先代の審神者とかいう女に捨てられた、私のことを。

 その夜は、久しぶりに泣いて寝た。
 祖父が死んだ日以来の事だった。





… … …





「……さん、大丈夫ですか?」
「え、」


 至近距離で話し掛けられていたのも気付かなかった。土曜出勤だからか、さほど電話も鳴らない、人員も限られた静かなオフィスでは、すこし目立っていたようだ。みな、私の顔を見ては、顔色が良くないよ、今日は早めに帰っていいよと労ってくれた。ありがとうございますと言って、定時まであと20分乗り切ろうと、エクセルに数値をひたすら入力する。頭の真ん中に、昨夜の男たちが居座ったままに。






「また、お会いしましたね」
「……会いに来られたの、間違いでは」


そうですね。そういったこんのすけは昨夜と変わらず仮面をしていたが、何となく、寂しい顔をしているような気がした。
もう諦めてここへ来ないだろうと思ったけど、まさかまだ来るとは。
 昨夜と同等のスーツを身に纏ったこんのすけは、今日は彼ひとりだった。私は、マンション脇の自動販売機に向かうと、あたたかいコーヒーを2つ買う。こんのすけ一人で良かった。すこしだけ、話をしたかったから。もう一人の男は、もしかしなくとも私の事を疎ましく思っているだろうし、こちらとしても話したくはない。自分を嫌っている人間に近づくことのできる人間を、私は尊敬せざるを得ない。


「時間、ありますかね」
「ありますよ。めいっぱい」
「そしたら、すこしだけ、話をしませんか。外で申し訳ないですけど」


コーヒー、微糖でも大丈夫ですか。

 そう言って、缶コーヒーを差し出すと、こんのすけは目を細めてそれを見た。恐縮でございますが、わたくしはそういうものを口にできぬのです、と言った。糖質制限でもしてんのかな、持病かもなと思い、片方をかばんに入れ、こんのすけに手渡した方のプルタブを開ける。




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