にがつじゅうよっか
「ばれんたいん…?」
「知らないですよね、そういう文化」
ばつを合わせてその場をしのぐこともできたが、ランページは素直にわからないという雰囲気を出した。
この地球にはそんな文明やら文化はまだ無いのだ。その上、機械生命体の彼らが同じような習慣があるとも思えない。
ある時、チータスの部屋の不思議な時計の読み方を習ったカオは、もうすぐバレンタインデーだと気がつく。ライノックスがいろいろなデータを集めてはくれたものの、あまり彼らには必要性が感じられ無いようであった。贈り物ならしたい時にすればいいのに、とラットルは話していた。
「なんじゃ、ばれんたいんというもんは」
「好きな人に贈りものをする日ですよ。みんなで贈ったり、もらえるかソワソワ待ったりする日って感じですかね」
「欲しいなら奪い取ればええ。なんで貰うまで待っとくんじゃ」
このカニ、やはりどこか思考がねじ曲がっているようで。
「種族の壁ですかね、みんなロマンチックなことには興味が無い」
「カオは、そういうもんが好きなんか」
「ええまあ」
「贈るもんは何でもええんか」
「お花とか、食べ物とか、いろいろですよ」
するとどうだろう、ランページは自分の胸部のパーツを一部むしり取った。
絶句。なにを考えてそんなことをしたのか固まっていると、痛むのか息も絶え絶えにランページは喋り始めた。
「これをやるけえ。わしゃ、何も持っとらんしのう。今度海ン中でも見てきてやるけえの、それで勘弁せえや」
カニの殻。そう脳裏をよぎる。
今じゃなくても良かったのに、そう思うがランページがこちらに合わせようとしてくれたことが嬉しくて。カオは大事に大事にソレを持ち運ぶようになる。
ラットルには趣味が悪いと言われたが、シルバーボルトは愛デス!自分も見習いマス!と自分の羽をむしり取ろうとしたのが良い思い出となった。
不死身な自分が初めて戦いの他に生かされたと、ランページは誇らしかったらしい。