怪我の功名
キャプテンの留守。
その間の病気や怪我は、後でめちゃくちゃ怒られる。なので、船員皆が気をつけていた。
それなのに風邪をひいた男がひとり。
「シャチ、大丈夫?」
「大丈夫に見えるかよ、えーっくし!」
ベポが心配をしている相手はシャチだ。うっかり風邪をひいてしまったこの男は、熱も高けりゃ咳も出る。ズビズビと鼻をすする音が、ベポにはとても耳障りだった。
「どれどれ熱はどうかな!」
とベポはデコを合わせて来る。悪気は無いのだろうが、勢いよくぶつけられたデコはコブを作った。
「イテテテ…ベポ!加減しろ!」
「すみません…」
ベポがズンと落ち込んでいると、ドアにノックの音が響く。ガチャリと開かれた扉の先には、カオがお粥を持って立っていた。
「シャチ、大丈夫?」
「カオ!救世主!」
「オレがお粥食べさせるよ!」
張り切って志願するベポに、シャチは慌ててストップをかける。
「ベポが食べさせようとして、粥が毛まみれになっちゃったんだろ!やめろ!」
「毛だらけですみません…」
「ベポは新しい氷を取ってきて欲しいな、お願い」
「アイアイ!」
さて、元気に飛び出したベポを尻目に、シャチはやれやれと枕に頭を落とす。
「シャチ、シャチ」
「ん」
「あーん」
お粥を差し出しているカオに驚く。そういえば、ベポは食べさせようとしていた。そのベポが居なくなった今、代わりに食べさせる係はカオしか居ない。別に手を怪我しているわけではないので、自分で食べられるのだが、こんなチャンスは逃すわけにはいかない。
「あ、あー…」
口を開けて待てば、運ばれてくる粥。
幸せだ、死んでもいい。シャチは風邪で死のうと思った。死因、看病にて。
「あつい!」
パク、一口くちに入れたところ、それは火のように熱かった。本当に喉を焼かして死ぬところだった、と後にシャチは語る。
「わ!冷ますの忘れてた!大丈夫?シャチ」
「大丈夫だ、びっくりしただけで、甘えたバチかな。ありがとう、自分で食うよ」
シャチはお粥を自分で食べ進める。
あーんしてもらえないのは残念だが、熱いものの加減は人には難しい。
「これ、常備の風邪薬。食べたら飲んでね」
「キャプテンが居たらなあ。居たら居たで、怖そうだけど」
シャチは苦笑い。
「熱はどう?」
「ああ。さっきベポにやられたよ。あいつ熱測ろうとして、コブができるほど頭ぶつけてきたんだ」
「どれどれ」
コブを見ようと、シャチの額をカオの手が触れる。
そんなことで、どうやら熱は上がったらしい。