stay with me

ペンキのバケツをひっくり返したように、赤に染まったその場は、まるで夢の中のようで。

赤の先がバケツならよかった。

シャチはグッタリ、動かない。血を流しすぎて、傷は深くて、ツナギは白からほとんど赤に染色されていた。

すぐにキャプテンの手で手術は行われたが、やはりあとは本人の気力次第。
こわくてこわくて、ベポの手を握ったり、水を飲んだり、寝てみようとしたりした。ベポは自分が不安な様子を見てさらに不安になってしまい、逆に慰めるかたちになった。ベポ、大丈夫だよって。

ベッドに横たわるシャチは、死んでるみたいに静かだった。

小さく上下する布団を見て、ああ生きてると思った。死んでるかもしれないと思ったなんて、キャプテンには言えない。

ベッドのふちに手を組んで顔を置く。そうするとよくシャチが見えた。こんな近くで見たこともないし、寝ているシャチはあまり見たことがなかった。
なにかとキャプテンキャプテンと働いていたシャチは楽しそうだった。

「シャチがぐうたらだったらよかったのに」

シャチの胸に顔を置きたかったが、傷があると考えて、肩に顔を置く。シャチの匂いではなく、薬の匂いがした。肩でも、服越しでも、シャチのあたたかさが伝わった。

「ねえベポが、泣いてたよ。はやく良くなってあげて」

ぐぐもった声が繊維を抜ける。
聞こえなくとも、シャチの身体に残ればいいと思った。

「ベポが泣くから泣かなかったの、つられて泣くのってずるいでしょ。慰めたわ、ベポを。でもその後も泣かないでいたの」

いま少し涙が出たくらいで、泣かなかった。ずっとなんで泣かなかったのか、たくさん考えて、日が暮れた。

「ねえ、シャチが好きだってバレても良かった?」

泣いたらバレちゃうじゃない。

それだけ言葉をシャチに流し込むと、カオは部屋を出て行った。ベポから目薬さして欲しいとお願いをされていたから。

完全にカオがいなくなったことを確認したのちに、シャチはクソでかいため息を出した。

「なんだよ、チクショウ」

きっと胸に顔を置かれていたら、心臓の速さで気がつかれてしまっただろう。

「おれは好きだってバレて良かったのに」

おさまることを知らない心の音は、彼女には届かない。