いみじくも、手
島に上陸すると、カオは食料と医薬品と、水と、調達に急いだ。
自分のできる仕事ができる。賞金のかかっていない自分は自由に街を回ることができる。それが自分の特権であり、はじめて自分に任された大きな仕事は誇らしさであった。
「行ってまいります」
そう伝えて、大袋を抱えて出て行ったカオの背中をキラーは見送った。
キラーは武器や船の修繕について、街を回ることになっていた。本来ならついて行きたい、あんな女一人、何かあればすぐに死ぬ。
「キッド、カオが心配だ」
「それ何回目だ。ガキじゃねえんだ、一人でやらせろ」
「しかし」
心配性の相棒に、キッドはあきれ顔だ。
任せてやれと論ずるキッドに、キラーは黙る。
一方で街、カオはメモを見ていた。
頭を悩ませていたが、尋ねるものもいなかった。メモに書かれた通りに買えばいいとだけ言われたが、こんなにスパイスの種類があるとは思っていなかった。
あまりの知識の乏しさに、自分が情け無い。
「オススメはこちらですよ、レディ」
「わ」
伸ばされた手から、ビンがひとつ渡された。サラサラとした金の髪の男は、ニッコリと笑った。キラーも金髪だが、だいぶ違う印象を受けた。
「失礼、お困りかと」
「ええとても。お兄さん、詳しいんですね」
「コックですから。詳しくは言えませんが、ある場所で。ぜひあなたのような素敵なレディにも自分の料理を食べて頂きたい」
つらつらと男は話した。その後もたくさん話を続けていたが、さっぱりカオにはわからなかった。ヒートアップする男のテンションにも戸惑う。こんなにも言葉がよく出てくるものだ。
「レディのお名前は」
「カオ」
「カオちゃんかあ〜」
カオは話半分も理解できなかったが、この男の料理の知識は見惚れるものがあった。メモを見せると、男は知識をこぼしながら選んでくれた。カオは自分もこれだけの知識で料理ができたならと願った。
「こんな量の荷物をレディに持たせてはいけない、私がお運びしましょう」
「しかし」
「いえ。遠慮なく、ささ、お手を」
流されるまま、カオの手は男に取られた。よく男の顔を見れば、デレデレと鼻の下を伸ばしていることがわかるのだが、やはりカオにはわからなかった。よく顔が変わる人なのだなと思っていた。カオの周りでよく知る男のキラーは、マスクで表情はわからないし、キッドはこんな緩んだ顔をしたりはしなかった。
「黒足」
しばらくまた男の話を聞いていたところ、ヌッと現れた男あり。カオは背後のその声に聞き覚えがあった。振り向けば、キラーが立っていた。
「なんだテメーは確か、ギザ男のとこの」
「キラーさん!」
「え、知り合いなのカオちゃん」
「カオちゃん…」
キラーの顔が見えなくとも、男にはわかった。ただならぬ雰囲気、殺意、戦闘態勢、そして殺意。
「キラーさん、この人が手伝ってくれて」
「カオちゃん…」
「カオちゃんに免じて今日は帰ってやる、ここで争うのも迷惑だ。カオちゃん!またね!俺に会いたくなったらいつでも呼んでね〜!」
大袈裟な投げキッスをして、大袈裟に手をブンブンと振りながら、竜巻のように去って行く男にカオは手を振った。
「カオちゃん…」
またそうボソリと呟くキラー。
何かその響きが、キラーの中ではショックだったのだろう。繰り返した。
「キラーさん、用事は終わったんですか?」
「あ、ああ」
「たくさん知識を頂きました。キラーさん、料理に役立てるかもしれません」
「何をされた」
「料理の知恵を貸して頂きました」
キラーはまっすぐにカオを見つめ、何かを見定めていた。カオはどうしたのだろうと、同じく見つめた。
「私の力不足でした。善処します、あの、叱りますか」
「いや、俺は」
バツが悪そうに、キラーは首をがしがし掻いた。
「戻ろう、カオ。荷を貸せ」
ヒョイと荷物を担ぐキラーの姿は、先ほどの男とは違って見えた。何故だか安心して、カオはずっと見続けた。
「キラーさん」
「どうした」
「荷は持ちます。だから、空いた手で私の手を持って欲しい。その方が嬉しい」
「な…」
カオは笑った。
キラーの、根性で片方の手で荷物を持ち、もう片方でカオの手をとる姿に。
キラーの手は、ゴツゴツとしていて、筋があって。厚い皮は、闘いの末。
あまり手を綺麗ではないと思っていたカオはずっと、自分のカサついた手が好きではなかった。だが、こんなにあたたかな手があるのなら、自分は綺麗でなくとも、あたたかくありたいと思う。
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金髪の男はサンジです。サンジに絡ませることをやりたかった…。