もみじとイチョウと松葉
口は災いの元。
「キャー!」
女の悲鳴がこだまする。
その女、カオという。
「キラーさんしろくま!しろくまがいますこの船!キャー!見てください!」
カオはピョコピョコと跳ねて興奮していた。しろくまのミンクはベポという。ここはハートの海賊団の船の上だ。
「落ち着けカオ、そいつに用事はない」
返事をしたのはキラー、なのだが姿はキッドである。そう、また入れ替えられてしまったのだ。次はキッドとキラーが。
「キャプテンはミンク族の方を置いてはくれないでしょうか!」
キラーは知らなかった。カオは奴隷時代、動物と触れ合う場もなければ、ぬいぐるみなんてそういったものには縁がなかった。話で聞いたり、本では見たことがあるものの、本物を見る機会なんて無かったのだ。えらく生き物に憧れがあったらしい。
「キャプテンに用事なんだろう?おれ、治せないよ」
「すみませんつい、でも、しかし、ぬいぐるみの代表的な生き物のくまが目の前にいるのが感動で!」
「こらカオ!少し近すぎるぞ!」
大きなベポにひっついて離れないカオに焦り始めるキラー(見た目だけキッド)は眉間がシワシワになる。キッドの顔だと、より一層迫力がある。ましてや普段マスクをしているキラーだから、どういう表情が表に出ているとはあまり気にしていない。
「なんかこの人こわいよ!助けてペンギン!」
「おめー女子に抱きつかれておいて助けてたぁどういう了見だ!うらやましいぞこの野郎!」
「そうだそうだ!良いところはいつも持っていきやがって!」
ペンギンとシャチがむくれながら、ベポにブーブーと文句を垂れる。
「まためちゃくちゃだ…」
ローは頭を抱えていた。自分で招き入れたようなものだが、予想外のところでトラブルありだ。
「もううちと関わるなよ」
見た目だけキラーのキッドはぼやく。ぼやきながら自分の姿を見る2回目の機会に、妙な気分になった。
「キャプテン、キャプテン!ミンクの方を仲間に入れましょう!」
「役に立つ奴が居たら、だ」
キッド(見た目だけキラー)の手を取り、お願いをするカオにキラー(見た目はキッド)はまた焦る。
「キッド!おれの体だからってカオに何かしたら許さないからな!」
「するわけねえだろ!」
「それなら姿はキャプテンのキラーさん、今なら権限があるのではないでしょうか、お願いします」
「お、おお、仕方ないな…」
「折れるなキラー!体はおれでも権限はねえ!外科医はやく戻せ!おれの船が動物園になっちまうだろうが!」
ローはひとりで顔を見せないようにしながら声を殺して笑っていた。
無事元に戻ると、キラーもカオもキッドからゲンコツを貰う。趣味が悪い、とローにはもう近寄りたくないとため息をつくキッドは、酒を注ぐのだった。