マトリョシカ戦法
“ シャンブルズ ”
そこで入れ替えられたのは、キッドとカオだった。
「あの野郎取っ捕まえて八つ裂きにしてやる!」
カオの身体で怒りを露わにするキッド。ガニ股で、ギリギリと歯ぎしりをしている。案外カオの方は落ち着いており、悪魔の実の能力に目を輝かせていた。
一番落ち着いておらず、ショックを受けていたのはキラーである。
まず泡を吹いて倒れた。
幼馴染の男は中身がカオで、好きな女の中身はキッドで。キッドの身体でしおらしくされても気持ち悪いだけだ。反対に乱暴なカオは見ていられない。
「キラーさん大丈夫ですか?」
「ううう、キッドの姿で心配されても全然嬉しくない…ぜんぜんかわいいと思えん…」
ますます具合が悪そうなキラーは、膝をついた。
「あーあーかわいくなくて悪かったなアアン?」
「カオの姿でガンを飛ばすな足を閉じろ!」
ヒートは少し離れたところから、旦那は苦労が絶えないんだなあとホロリとしていた。相変わらず、ワイヤーは面白い試合を見るようににやにやリンゴをかじっている。
「すぐ外科医さんに戻してもらいましょう、話せばわかってもらえると思いますよ」
「おれに頭下げろってのか!あいつを殺して能力を断ち切る!」
「どうするんだカオの身体で!キッド、カオに怪我させてみろおれがお前を許しておかないからな!」
このややこしい喧嘩は見てる分には面白かったが、3人にはたまったものではなかった。
「キラー、お前が頭下げてこい。おれは嫌だぜ」
「そんなこと言える立場かキッド」
「良いのかそんなこと言っちまって。おれはお前に策がある」
「でまかせを…」とキラーが言いかけると、中身がキッドのカオはキラーの腕にすり寄ってしっかり上目遣いを決める。
「キラー…やってくれるよな」
胸は当たるし、パチンと瞬きをするたびに星が飛ばされているようだった。
中身がキッドとわかっていても、カオの姿かたちでされるとかわいらしかった。
「…………ずるいぞ、キッド…」
「へ!おめーの弱点くらいわかってんだよ。さっさとアホ外科医の野郎を連れて来い!」
「じゃ、弱点じゃない!」
中身がキッドのカオが投げキスをすれば、キラーはまた倒れた。
******
「…というわけだ、頼む元に戻してくれ」
「めちゃくちゃだ」
話を聞くローは苦い顔をしている。カオと入れ替えてしまったために、すぐに元に戻してやろうとは考えていたがまさかそんなことになっているとは。
些細なことからローはキッドと言い争い、中身を入れ替えて懲らしめてやろうと思ったのだがキラーが一番ダメージを受けている。これでは面白くもない。
「やれやれ、とんだ茶番だ」
元に戻ったキッドは手を動かし、腕を回し、自分の身体を確かめていた。
やれやれと思うのはキラーも同じ、もうこんな珍事は勘弁して欲しいものだ。
「キラーさん!戻りました!ちゃんと私ですよ」
ぱあ!と神々しい笑顔はたしかに本当のカオのものだ。あんな乱暴でガサツなカオはもう見たくはない。
「キャプテンとキラーさんが入れ替わっていたら大変でしたね」
「たしかにそんなことになれば船は大混乱だな」
この後、口は災いの元になる。