キラー誕生日
夕べ。
ウッカリ寝てしまったキラーはスッカリ赤くなった海を見る。最近、日が長くなった。
ランチの後、カオが今日は忙しいと言って相手をしてくれなかったが昼寝の原因だ。
「カオ…」
ボサボサになった髪をさらにクシャクシャにさせながら頭を掻く。マスクをして部屋を出ると船がいやに静かで、誰もいない。
「旦那」
頭上から声をかけられる。見上げればワイヤーがいつもの顔で仁王立ち。
「おれたちだけです」
「どこに行ったんだ。カオは」
「ここに居ますよ」
ワイヤーの手のひらにはカエルが一匹。何の冗談だと顔をしかめれば、ワイヤーはフフンと口角を上げた。
「信じないなら良いんですけどね」
のそりのそりと降りて来たワイヤーはキラーにカエルを手渡す。馬鹿馬鹿しい、そう思いながらキラーはビンにカエルを移した。一応、そのまま持ち運ぶことにするために。
「カオー、いるんだろ」
ゲコ、とカエルが返事をした。お前じゃあないとビンを睨む。目線はどこを向いているのか、カエルの顔色はわからないままだ。
部屋をまわり終わるが、カオは居なかった。キッドも居ない。
ゲコゲコと鳴くカエルの声だけが船に響く。
そのうちどれが一番星かわからなくなった頃。ワイヤーの言っていたことが頭をよぎる。こんなカエルがカオなわけがないのに。
「本当にカオなのか」
ゲコ。
「そんなおとぎ話、あるとは思えない」
ゲコゲコ。
お姫様のキスで魔法でカエルに変えられた王子様が元の姿に戻るおとぎ話があるが、まさかそんな。いや、しかし、悪魔の実でそういった能力者がいるのかもしれない。
「本当にカオだとしたら…」
どうしたらいい。
おとぎ話のようにキスで元に戻るのだろうか。だってそうだ、カオを戻せるキスができるのは自分だ、自信がある。そうでなくてはならない。そうでなければ困る。
ゲコ、ゲコ。
キラーはビンからカエルを取り出すと、固唾を飲み込む。
「カオ…」
ゲコチュ。
「キラーさん?」
何しているんですか、そう声が聞こえたのは背後からだった。カエルは、ゲコゲコと鳴き続けている。
*****
キッドが涙を流して、腹を抱えて、顔を抑えて笑った。
「そんなに笑うな…」
「おまえ、まさか産まれた日にカエルと…フ、良いプレゼントもらったもんだな」
キッドの笑いは止まらないし、ワイヤーも珍しく声を殺して大笑いしている。後で絶対に半殺しにしてやらないといけない。
「すみません。秘密にしておきたかったもので、声をかけずに街へ出ていたんです」
カオも少し、笑いながらケーキを持ってきた。今日はおれの誕生日らしい。
昼食にワイヤーが薬を盛って、眠くなるように仕向けたのだ。留守番で暇をしていたワイヤーは、ちょうど実験のために捕まえていたカエルを利用して、キラーをオモチャにしたのだ。
ケーキを切り分けながら、カオは果物の説明をしている。その口元は、やはり笑っていた。男がカエルにキスをしている姿なんて、それはきっとおかしかったに違いない。
「カオも馬鹿だと思うのか」
「いいえ、キラーさんは優しいなと思っていました。わたしがカエルになったその時は、キラーさんにお願いしますね」
1ピースのケーキが皿に運ばれる。
いちごをひとつ、カオは他のケーキの上から移してキラーのケーキのいちごの数を増やした。
まあ悪くない。