オカリナ

パンのにおい。
パン屋なのだから当たり前なのだけれど、この匂いはなんとも幸せな気持ちにさせてくれる。この店で働く彼女はふわふわとパンのようで、やわらかい印象を受ける。レジを打つ僅かな時間に話しをすれば終わり。それがとても楽しみになっていた。

ドラフの彼女、名前はカオ。名札にそう書いてあった。カオはドラフ女性の中では背が高い方だということ。まだ見習いで自分のパンを置いてもらうように頑張っていること。クリームパンが好きなこと。

知らないことはその他全部。


「ランスロットさん!今日も来てくれたのですね」

「パンが好きなんだ」

「あ!今日はわたしの作ったパンがあるんです。オマケ……にはならないかもしれませんが、入れておくので食べてみてください!もちろん、店長の許可を得ています」


今日はそうして、彼女の作ったパンを入手してしまった。他のパンはさっさと食べてしまったのだが、このパンは勿体なくて手をつけられない。

「ランちゃんずっとそのパン握りしめちゃって、かわいい」

「か……!い、今は腹が減って無いだけだ」

「手作りのプレゼントだもんな、もったいないよ。わかるわかる」

結局ランスロットは夜まで食べることを躊躇っていた。握りすぎて硬くなってしまったパンだが、とても美味しく優しい味に涙が出そうになった。