2月前

ガヤガヤと賑わう街。もうすぐね、どうする今年は。そんな会話が飛び交い、笑い声がする。バレンタインフェアだとか、キャンペーンだとか、そんな宣伝が始まったのだ。

「そうかもうすぐ……」

シスはひとり言葉を飲む。毎年団長がバレンタインに準備をして、チョコレートを振舞ってくれる月。面白がって参加するフュンフや張り切ってレシピを公開するファスティバ。

「あいつは、俺にくれるだろうか」

ドキリと胸が締め付けられた。カオはバレンタインを知っているだろうか、いや、きっと団長たちが教えているに決まっている。そうするとやはり、準備してくれるだろうか。そう考えるとソワソワとして、シスはバレンタインのことばかり気にするようになった。



「カオちゃん、団長さんにユーステスくんの味の好みを聞いてきたらしいわよ」
「な、なにい!?」

ドン! と手を机について、シスは声を荒げた。
シスが手をついたおかげでひっくり返りそうになったグラスをファスティバは拾い上げてアラアラと笑った。シスはワナワナと震え、口を開けたままショックを受けている。この時期に味の好みを調べているだなんて、バレンタインが関係あるのではないだろうか、いやきっとそうだ。

「何かプレゼントでもするのかしらね。シスくんはうかうかしていると、カオちゃん取られちゃうかもしれないわよ」
「そ! そんなことは断じて! な、ない……と」

……思いたいが、もしかすると、もしかするかもしれない。そういえば耳を触らせてもらったり、撫でてもらっていたり、仲良くもしていたがまさか。

「カオが……」
「冗談よ! 誰が見たってカオちゃんは、フフ、シスくんだけ見てると思うわ」

ファスティバの言葉に小さく頷くシス。こんなにショックを受けるとは思っていなかったファスティバは、おまけにあげちゃうと言ってお菓子を差し出してきた。

カラカラと店の扉の鐘が鳴ると、噂のカオが入って来た。

「ちょうどよかった! カオちゃん、バレンタインデーは誰にあげるの?」

そうファスティバが尋ねると、シスはピクピクと耳を動かした。入ってすぐに質問をされたカオは、驚いて瞬きを3回。

「バレンタイン…? デー?」
「そう、誰にあげるのか言ってやって!」
「それは、ええと、何かの……日?」

ファスティバもシスもぽかんとして、カオを見た。カオはバレンタインなんて知らなかったのだ。縁もなく、知る術もなく生きてきたのだから。

「し、知らないのか?」
「う……うん」
「ユーステスにあげるのではなく、知らないと言い張るのか?」
「ユーステスさんと関係ある日なの?」

シスはカオの目を見て、これは本当に知らないのだと確信した。

「知らないなら、いい」
「な、なに、なんのはなし?」
「あー知らん知らん! 後でグランに聞いてみるんだな」

シスはプイッと顔を背けた。ファスティバも笑うばかりで、カオが尋ねても教えてはくれない。