ポッカ
シスは何も聞かず、怒らず、心配しなかった。ただ黙って前を歩いている。
グランと合流すると、何があったのか、怪我はないかと聞かれ、男に捕まったことを話した。その話を聞いている最中も、シスは寡黙であった。
艇に戻ると、フュンフが元気よく「トリックオアトリート!」と押し掛けて来た。イタズラされては困るとチョコレートを渡す。
「あれ、カオ。ここんとこ怪我してるよ! あちしが治したげるね!」
「あ、本当。ありがとう」
フュンフがすぐに魔法で治癒を施すと、フュンフはふくれた顔でシスの目の前に動いた。
「んもー! シスがいたんでしょ、カオに怪我させちゃダメじゃん!」
「すまない」
「今度怪我させてるの見つけたら、次からカオはあちしと遊ぶんだからね!」
シスは何も言い返さなかった。承諾したのだろうか。
フュンフがまだまだお菓子を集めると言うと、元気に向こうへ飛んでいく。自分はこのままどうしようとシスの顔を見るが、シスの表情は読み取れない。歩き出すシスについて行ってもシスは何も言わなかった。部屋の前に来ると振り向かれた為、やはりここまでだろうかと身を引こうと思った。しかしシスの一言は「来てくれるか」という誘いの言葉だった。
中に入れば、いつものシスの部屋の匂いがした。
「怪我をしていたのか」
入るなり、シスはそう呟きながら手を取った。
「すりむいただけ、よく見ないとわからないくらい」
「俺はよく見ている」
よく見られているのかと少し照れる。ポッとしていれば、シスも自分がつい言った言葉にカッとしていた。
「シス、ねえ」
「なんだ」
「わたしもシスのこと、よく見てる」
「か、勝手にしろ」
嬉しい時恥ずかしい時、シスの胸に頭を預ける。トクトクと自分の胸が跳ねる中で目を閉じた。直接は見えなかったものの、仮面を外す動作がわかる。無意識に、あまり見ちゃ駄目かもと息を飲んだ。
「カオ、カオ」
シスがゆっくりするりと抱きしめてきて、首に鼻を埋めてくる。頭に頭をひっつけて、シスの毛を感じる。くすぐったい。
「シスにまたマント借りちゃったね。ありがとう」
「うん」
仮面がないためか、シスの返事は少し弱くてかわいらしい。カオは少し口元が緩む。
「シスがいなきゃ駄目みたい」
「その方が都合が良い」
「うん。じゃあずっと」
しばらく頬擦りして、その後するするとシスの腕から抜け出す。カオは自分の目を閉じたまま「いいよ」と伝えた。そうすると、ふにっと何かが押し付けられる感触がした。
カオは『仮面をつけていいよ』というつもりであったが、シスは唇を重ねてきたのだった。
「か、仮面……いいよって、こと」
「な!」
自分の勘違いに慌てて仮面をつけるシスに、どんな顔をすれば良いのかわからずなかなか目を開けられない。ゆっくりうっすらと目を開いていけば、腕組みをしてむくれているようなシスがいた。それがなんだかおかしくて、笑いを堪えて唇を噛む。
シエテにマントを無くしてしまったことを謝らなければいけない。それを伝えると、すぐに行くぞとこれ幸いとシスは早足で歩き出してしまった。