空腹では話さない
今日は皆でごちそうを食べ、踊り、ワインを片手に話をする日だった。つまりはパーティーに呼ばれて居た。赤い色のきらびやかなドレスを、カオは恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにドレスを翻していた。
カオはこのドレスが1番好きだと話していた。ドレスなんて似合わないと言い着たがらないカオだが、女性らしく、綺麗なものは好きだったのだ。
それが今夜、ジークフリートがポツリと生前の妻を思い出すよと言い事件になった。カオはその夜、ドレスをクシャクシャにしてゴミとして外に出してしまったのだ。
「カオが口を聞いてくれないのだが……」
朝食後、給仕の者がそうジークフリートにたずねられた。カオは目が座り、無言でパンと紅茶を口に入れるとすぐに部屋に入ってしまった。皆が、ああまたこの人は何かやらかしたのだろうなとジークフリートを見ていたが、そんなことは知る由も無い。
「何か心当たりはありませんか?」
「昨日は花市場に行って、カオは嬉しそうだった。夜は、ドレスを褒めた。何も心当たりは……」
「何と言って褒めたのですか」
言いよると「妻を思い出す、と」そうジークフリートは給仕たちに話した。それだ、と皆ガックリ。何かまずかったのかとオロオロするジークフリートに、大きなため息が出た。
「カオ様はジークフリート様に褒められたから、あのドレスをたいへん気に入っておられたのですよ」
「それなら何故、また褒めているのに怒るんだ」
「その褒められていた理由が、愛していた人に似ているからと言われては……」
ジークフリートは正直、よくわからなかった。
夕食に現れないカオを気にかけて、ジークフリートは声をかけに部屋へと訪れた。どうした、出てこないのか、腹でも痛いのか、と戸の前で声をかけると少し扉が開いた。その隙間から覗かせたカオの顔は、この上なく仏頂面だった。
「あっち、行って」
「何故だ。今日は鶏肉だ、カオの好きな鶏だぞ」
「ジークフリートさんが食べて。わたしはいらない」
その日、ジークフリートは後でカオと食べるからと食事を摂らなかった。
次の日、カオは一人で水栽培の球根の作業をしていた。ジークフリートが近寄れば、フイッと顔を晒す。またその次の日も、カオは食事を摂らずに一人で植物の世話をしていた。
ジークフリートは水を飲むカオにたまらず声をかけた。
「何か食べるんだ」
「食欲ないの」
「あるか、ないかじゃない。体を壊すぞ」
カオは首を横に振る。
「おれはわからない。なぜ、その、カオが落ち込むのか……」
「お……」
言葉を飲み込むカオの頬にジークフリートは優しく手を添えた。
「敵わないじゃないですか、奥様には」
何の話だとキョトンとしているジークフリートを見ると、カオはますます腹が立った。腹が立ち、悔し涙が出た。これは止まらない。
「ジークフリートさんに褒められたドレスでした。でもそれは、奥さんを思い出すからで、わたしではなかった」
「それは妬きもちだぞ」
「そうですよ、妬いています。だってもし、奥様が戻ってきたらそちらを選ぶでしょう。そう確信したから」
とうとう声を上げて泣き始めたカオに、ジークフリートは背中をさすりながら言いたいことを聞けて良かったと伝える。
「カオ、おれは前世の記憶がある者として扱って欲しい。カオにも前世には夫がいたかもしれない、その前も、その前の前世にも。おれはそれに干渉ができない」
「そうですが……」
ジークフリートはおもむろにナイフを取り出すと、自分の髪を切り落とす。
「別の者になるというのはどうだろう。とりあえず髪を切った。妻の前でこれほど髪を切ったことは無いぞ、どうだ」
バッサリと切られた髪が床に散らばると、金縛りにかかったようなカオの口がやっと動く。
「ば、ばか! 聞いてから切れば良かったのに、ああもうその一人で決めるところ、もう、ばか!」
「カオも一人で決めるじゃないか」
「ジークフリート!」
カオの髪を耳にかけると、ジークフリートはフッと微笑んでカオに語りかけた。
「今この時、俺はカオを大切に思っている。呼び出され主人として、それから一人の女性として、大切に」
「ああもう、あなたは……」
泣いた。カオはとにかく泣き、サーヴァントを好きになってしまった自分を責めた。責めた後に、少し褒めた。ジークフリートは本当に優しいからだ。
多くは語らないジークフリートは、少しずつパンをかじるカオが食べ終わるまで側に居たそうだ。