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「おはようございます、キョーイチロー様」

 朝一番に恭一郎の元へやってきたのはミルだった。いつもなら朝食を運んでくるのはリュングで、勉強の一貫として会話をしながら共に食事を摂る。

「おはよう、ミルトウンゲルドゥル。リュールングレーラーは?」

 落ち込んだままだったらどうしようと気を揉んでいたミルだったが、何もなかったかのように振る舞う恭一郎を見て肩の力が抜けた。
 ライは今朝早く祭場へ向かった。魔術師のリュングと護衛にスタルクを伴って。ミルが目覚めたとき、既に三人の姿は無く、置いて行かれたことに憤りを感じながらも言い付け通り、恭一郎の元へやってきた。

「リュングはライ様とお仕事です。何ですか、私じゃ不満だって言いたいんですか?」
「不満、ない。いつもと違う、何故?思っただけ。ミルトウンゲドゥル、嬉しい」
「……お世辞なんかいらないです。どうせみんな私を除け者にするんだ」
「ミルトウンゲドゥル、俺といる、不満か?」

 あ、ちょっと面倒くさい……と思いはしたが顔には出さない。だって自分はいい大人だから。少々意地悪な質問をしてしまったのはご愛嬌だ。

「私は……ライ様のお役に立ちたいんです」

 フォークで赤い実を転がしながら言葉を零したミルは、その容貌と相俟ってとても儚く見えて、恭一郎は思わず白金に覆われた頭を撫でてしまった。

「役に立つ、は、一つじゃない。ミルトウンゲドゥルだけ、できること、きっとある。大丈夫だ。」
「キョーイチロー様……」

 自分の言いたいことは伝わっただろうか?役に立つ方法は一つじゃない、ミルにしかできないことがあるはずだから大丈夫だ。
 ミルは涙を流していた。
 何かまずいことでも言ったかと恭一郎は焦る。

「な、泣くする、何でだっ?」
「すみませ……うれ、しくて……っ」

 どうやら悲しい涙ではないらしいので、恭一郎は胸を撫で下ろす。

「大丈夫。だいじょーぶ……」

 椅子から立ち上がりミルの背後に回って華奢な体を腕の中に抱き込む。そして、ミルの頭を撫で続けた。彼の涙が止まるまで、ずっと。

「お見苦しいところをお見せいたしました」

 ズビッと鼻をすすったミルの目元は赤くなってはいるが涙は止まっている。恭一郎は気にするなとでも言うように笑って返した。
 それから、お茶を飲みながら他愛もない話をした。会話の中で恭一郎は多くのことを知った。中でも衝撃的だったのは……

「え……ラインシュリヒガーベ、十七歳?!」

 細身ではあるが恭一郎よりも長身で、明るい表情を一度も見せたことが無いライ。顔立ちも決して幼くはなく振る舞いや周囲からの扱いなどで、少なく見積もってもギリギリ同年代くらいだと思っていた。そんなライよりは年下だろうと思っていたミルは何と二十九歳で、恭一郎よりも年上だった。

「キョーイチロー様は?」
「……二十五歳」

 年下の奴に頭を撫でられたと知って気を悪くしないだろうかと心配になって、少々口ごもった恭一郎だったが杞憂だった。

「そうなんですか……もう少し幼いかと思ってました」

 何の事はない。元々彼より年下だと思われていたのだ。年下だと思っていたミルよりも更に年少と思われていたとは……。実年齢より上に見られることが多かった恭一郎は初めての反応に面映さを感じて、モニモニと口元を動かし何とも言えない表情をしていた。